妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?

木山楽斗

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64.起こったこと

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「ボルックさん、何があったのですか?」
「ルルファナ様……それからお二人にも、聞いてもらいたいことがあります」
「僕達も、ですか?」

 使用人であるボルックさんは、淡々と言葉を発していた。
 彼の態度からは、感情が読み取れない。その平坦さは、長年の職務で身に着けたものだろうか。
 ただ、彼の眼光は中々に鋭い。私達のことを、見極めているかのようだ。

「こちらにお入りください」
「え? ええ……」

 ボルックさんに促されて、私達はトレイル子爵の執務室へと入っていった。
 すると部屋の中にたたずんでいる一人の青年が目に入った。その青年は、恐らくルルファナ嬢の弟のロディオスであるだろう。
 その彼の様子は、明らかにおかしかった。沈痛な表情をしているし、放心状態のようにも思える。

「ロディオス……あなた、どうしたの?」
「……姉上、それからリオネル公爵令息、アルリア伯爵令嬢、落ち着いて聞いてください。僕は父上を手にかけました」
「え?」

 ロディオスの言葉に、私達三人は固まることになった。
 それはもう、仕方のないことである。彼が言っていることは、恐ろしく驚くべきことだ。そんなことを聞いて、冷静でいられる訳がない。

「ロディオス、何を言っているの? 言っていい冗談と悪い冗談の区別も、つかなくなったのかしら?」
「姉上、残念ながらこれは現実です。僕は父上をこの手で葬り去りました……後悔はしていません。父上は姉上方や母上にひどいことをしていましたからね。今回のレメティア姉上への行為は……僕にとって、到底許せることではありませんでした」
「だ、だからって……」

 ルルファナ嬢は、かなり動揺しているようだった。
 未だにロディオスからもたらされた事実に、思考が追いついていないようだ。私だって、まだ完全に追いつけている訳ではない。身内を亡くした彼女は、ショックも大きいだろうし、それは当然のことだ。

「……旦那様の死について、使用人一同は隠蔽することに決めました」
「……え?」

 そんな彼女に対して、追いうちのように言葉がかけられた。
 それは使用人であるボルックさんの言葉だ。彼はこの場において、ずっと表情を変えていない。その表情は、まるで鋼か何かのようだ。

「我々はロディオス様の行動を支持します。旦那様に対して、皆思う所はありました。メイドは特に……」
「それは……」

 ボルックさんの言葉から、トレイル子爵が使用人の女性達に対してもひどい扱いをしていたことがわかった。
 どうやらこの屋敷に、彼のことを慕っている者などは存在していなかったようだ。故に屋敷ぐるみで死を隠蔽しようとしている。そういうことなのだろう。
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