妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?

木山楽斗

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58.怪しい子爵

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「突然の訪問には驚きましたよ」

 トレイル子爵は、笑顔で私達に応対していた。
 ただ、目が笑っていない。彼が私達を歓迎していないことは明らかだ。

 突然の訪問であるため、それは仕方ない面もあるといえる。
 しかし私には一つ気になることがあった。トレイル子爵の視線は時折こちらに向くのだが、その視線がどうにも鋭いのだ。

「しかも、お二人も来るとは……リオネル公爵令息、それからアルリア伯爵令嬢、あなた方はレメティアの友人ということでしたか」
「ええ、そうですね。もっとも、レメティア嬢が僕達のことをどう思っているのかはわかりませんが……」
「あれに友人がいるなんて驚きです。じゃじゃ馬でわがままな大馬鹿者であるというのに……」

 トレイル子爵は、忌々しそうにそう吐き捨てていた。
 その言葉には、確かな悪意が感じられる。ただ、これは私達に向けられたものではないだろう。彼は今、レメティア嬢のことを侮蔑しているのだ。
 それは凡そ、父親が娘のことを語る時の表情ではない。身内を語る故の謙遜などではなく、彼はレメティア嬢をこき下ろしている。

「おっと、失礼。あなた方に聞かせるようなことではありませんでしたね」
「いえ、お気になさらず。トレイル子爵にも、それ相応の事情があるのでしょうからね」
「流石は公爵令息ですね……ご立派です」

 リオネル様の受け流す言葉に返答しながら、私の方に視線を向けた。
 それはやはり、鋭い視線だ。なんというか、暗にそれに比べてと言われているような気がする。いやそれは、私の気にし過ぎだろうか。

「しかし困りましたね……レメティアは今は危険な状態、とても会わせられる状態ではありません。このままお帰りいただくしかないでしょうな」
「そのことについて、もう少し詳しく聞かせていただけませんか?」
「詳しく、ですか?」
「レメティア嬢は、一体どうして事故にあったのでしょうか? その辺りのことは、新聞に載っていませんでしたよね?」

 トレイル子爵は、私達の方からゆっくりと目線をそらした。
 恐らく、事情は説明したくないということなのだろう。その反応は、私達の疑いを深めるものであった。やはり何かの陰謀が隠されているのだろうか。

「……話すようなことはありませんかね。帰る途中に、馬車が横転した。ただそれだけのことです」
「原因はなんだったのでしょうか?」
「さて、その辺りのことは詳しくわかりません。まだ調査中ですから」

 リオネル様からの追及を、トレイル子爵は誤魔化していた。
 いくら調査中だからといって、そんなにわからないものなのだろうか。何が起こったくらいかは、わかるはずだが。
 トレイル子爵の態度なども合わせて考えると、やはり何かがありそうだ。今回の事故について、他の人にも聞いてみた方が良さそうである。
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