妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?

木山楽斗

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56.知らなかったこと

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 私はリオネル様とともに、ボルダン子爵の元を訪ねていた。
 私達の来訪を、彼は快く受け入れてくれた。そして、私達の話を聞いて目を丸めている。どうやら彼は、レメティア嬢の事故のことを知らなかったようなのだ。

 その反応に、私達は驚いている。レメティア嬢――というよりもトレイル伯爵家と交流があるボルダン子爵が、何も知らないというのはおかしな話だ。
 例え世間に公表しなかったとしても、知人であるボルダン子爵には一報入れるものではないだろうか。

「ボルダン子爵、あなたは何も知らなかったのですか?」
「ええ、恥ずかしながら……この新聞は取っていませんでしたからね」
「ええ、僕もそうでした。どうやらこの記事は、この新聞にしか載っていないようですね。それも、小さな記事です。見落とされる可能性だってあるでしょう。知っている人は、そう多くないのかもしれません」

 レメティア嬢の記事は、お兄様が偶々見つけたものである。
 それも私と会話するために投げ出した新聞が、会話の最中ふと目に入ったという感じだ。元々お兄様は、その記事を見ていなかったということである。
 恐らく、未だに気付いているのは貴族の中でもごく少数なのだろう。故に情報は広まっていない。そこには何かしらの思惑が感じられる。

「ボルダン子爵、もしかしたらトレイル子爵家は、この情報を隠したいのかもしれません。ただ公表はしておきたかった。そんな所でしょうか」
「……それは、どういうことですか? なんというかあべこべに思えますが」
「そのことについて、お伺いしたいのです。トレイル子爵はどのような人物なのですか? 例えば、策士であるとか」

 リオネル様は、ボルダン子爵に質問を投げかけた。
 すると彼は、苦い顔をする。トレイル子爵の評価については、芳しくなさそうだ。それがどういった観点での話かはわからないが。

「トレイル子爵は……褒められた人物ではないといえるでしょう」
「おや、中々に辛辣な評価ですね」
「レメティアに肩入れしている私からすれば、そう言い表すしかありません。彼はなんとも、極端な思考をしています。レメティアやその姉ルルファナを道具のように思っており、目的のためなら手段を選びません」
「なるほど……」

 ボルダン子爵が述べるトレイル子爵の評価に、リオネル様はため息をついた。
 その評価を聞けば、そうするのは無理もない話だ。レメティア嬢からある程度の話は聞いていたが、トレイル子爵はかなりの悪漢であるらしい。そんな彼の元で、今回のようなことが起こったという事実は、考えるべきことであるだろう。
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