50 / 70
50.彼の提案
しおりを挟む
「さて、トゥーリア嬢、あなたに一つ提案したいことがあります」
「提案したいこと、ですか?」
話が一段落ついた折に、レーゼル様はトゥーリア嬢に改めて声をかけた。
その声色は、先程までとは少し異なっている。穏やかでどこか遠慮しているような、そんな少々変わった声色だ。
それに私とリオネル様は、顔を見合わせていた。部外者である私達は、話を聞いているしかない。そう思って、改めてレーゼル様とトゥーリア嬢の様子を観察する。
「デュオーラム伯爵家は、恐らく終わりでしょう。チャルリオ伯爵令息の行いが周知のものとなると、厳しい立場になります。それはデュオーラム伯爵夫妻も覚悟の上でしょう」
「ええ、そうでしょうね。家のことを考えるならば、お兄様は始末した方が良いのですから」
「もしかしたらお二人も既に考えているかもしれませんが、その辺りのことに関しては不躾ながらリオネル公爵令息に頼みたい。あなたならば、王家にも顔が利くはずです」
「なるほど、僕ですか」
そこでレーゼル様は、リオネル様に話を振った。どうやら彼の方は、部外者という訳ではないようだ。
「もちろん、僕も首を突っ込んだ一人ですから、そのくらいはさせていただきますよ」
「リオネル様、ありがとうございます」
「いいえ、トゥーリア嬢。お気になさらないでください」
リオネル様は、快く提案を受け入れていた。
彼ならきっとそう言うだろうと、私も思っていたため、特に驚きはない。彼は本当に優しい人だ。貴族としては、甘すぎるくらいには。
「トゥーリア嬢、私が提案したいことはその後のことです」
「後、ですか?」
「ええ、あなたとご両親を迎え入れたいのです」
「……え?」
トゥーリア嬢は、レーゼル様の言葉に固まっていた。
それは当然の反応だろう。彼は、驚くべきことを言っている。それがどういう意味であるかは、考えるまでもないことだ。
「私は、あなたの勇気に惚れ込んでいます。できれば妻に迎えたい。デュオーラム伯爵家が存続するなら話は別ですが、そうでないなら婚約していただきたい」
「それは……でも、デュオーラム伯爵家がなくなったら、利益はありませんよ?」
「利益はあなた自身です。心強い妻を迎えられるよりも大きなことなどないでしょう」
レーゼル様は、そのように言いながら笑みを浮かべていた。
彼は冗談を言う人ではない。これもまず間違いなく、本気であるだろう。
彼は伯爵令嬢ではなくてもトゥーリア嬢と婚約したがっている。それだけの価値を、彼女に見出しているのだ。
「提案したいこと、ですか?」
話が一段落ついた折に、レーゼル様はトゥーリア嬢に改めて声をかけた。
その声色は、先程までとは少し異なっている。穏やかでどこか遠慮しているような、そんな少々変わった声色だ。
それに私とリオネル様は、顔を見合わせていた。部外者である私達は、話を聞いているしかない。そう思って、改めてレーゼル様とトゥーリア嬢の様子を観察する。
「デュオーラム伯爵家は、恐らく終わりでしょう。チャルリオ伯爵令息の行いが周知のものとなると、厳しい立場になります。それはデュオーラム伯爵夫妻も覚悟の上でしょう」
「ええ、そうでしょうね。家のことを考えるならば、お兄様は始末した方が良いのですから」
「もしかしたらお二人も既に考えているかもしれませんが、その辺りのことに関しては不躾ながらリオネル公爵令息に頼みたい。あなたならば、王家にも顔が利くはずです」
「なるほど、僕ですか」
そこでレーゼル様は、リオネル様に話を振った。どうやら彼の方は、部外者という訳ではないようだ。
「もちろん、僕も首を突っ込んだ一人ですから、そのくらいはさせていただきますよ」
「リオネル様、ありがとうございます」
「いいえ、トゥーリア嬢。お気になさらないでください」
リオネル様は、快く提案を受け入れていた。
彼ならきっとそう言うだろうと、私も思っていたため、特に驚きはない。彼は本当に優しい人だ。貴族としては、甘すぎるくらいには。
「トゥーリア嬢、私が提案したいことはその後のことです」
「後、ですか?」
「ええ、あなたとご両親を迎え入れたいのです」
「……え?」
トゥーリア嬢は、レーゼル様の言葉に固まっていた。
それは当然の反応だろう。彼は、驚くべきことを言っている。それがどういう意味であるかは、考えるまでもないことだ。
「私は、あなたの勇気に惚れ込んでいます。できれば妻に迎えたい。デュオーラム伯爵家が存続するなら話は別ですが、そうでないなら婚約していただきたい」
「それは……でも、デュオーラム伯爵家がなくなったら、利益はありませんよ?」
「利益はあなた自身です。心強い妻を迎えられるよりも大きなことなどないでしょう」
レーゼル様は、そのように言いながら笑みを浮かべていた。
彼は冗談を言う人ではない。これもまず間違いなく、本気であるだろう。
彼は伯爵令嬢ではなくてもトゥーリア嬢と婚約したがっている。それだけの価値を、彼女に見出しているのだ。
680
お気に入りに追加
2,230
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。
そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。
しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。
※カクヨムにも投稿しています!
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
聖獣がなつくのは私だけですよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!
わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。
ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」
そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。
真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。
「…………ぷっ」
姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。
当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。
だが、真実は違っていて──。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる