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50.彼の提案

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「さて、トゥーリア嬢、あなたに一つ提案したいことがあります」
「提案したいこと、ですか?」

 話が一段落ついた折に、レーゼル様はトゥーリア嬢に改めて声をかけた。
 その声色は、先程までとは少し異なっている。穏やかでどこか遠慮しているような、そんな少々変わった声色だ。
 それに私とリオネル様は、顔を見合わせていた。部外者である私達は、話を聞いているしかない。そう思って、改めてレーゼル様とトゥーリア嬢の様子を観察する。

「デュオーラム伯爵家は、恐らく終わりでしょう。チャルリオ伯爵令息の行いが周知のものとなると、厳しい立場になります。それはデュオーラム伯爵夫妻も覚悟の上でしょう」
「ええ、そうでしょうね。家のことを考えるならば、お兄様は始末した方が良いのですから」
「もしかしたらお二人も既に考えているかもしれませんが、その辺りのことに関しては不躾ながらリオネル公爵令息に頼みたい。あなたならば、王家にも顔が利くはずです」
「なるほど、僕ですか」

 そこでレーゼル様は、リオネル様に話を振った。どうやら彼の方は、部外者という訳ではないようだ。

「もちろん、僕も首を突っ込んだ一人ですから、そのくらいはさせていただきますよ」
「リオネル様、ありがとうございます」
「いいえ、トゥーリア嬢。お気になさらないでください」

 リオネル様は、快く提案を受け入れていた。
 彼ならきっとそう言うだろうと、私も思っていたため、特に驚きはない。彼は本当に優しい人だ。貴族としては、甘すぎるくらいには。

「トゥーリア嬢、私が提案したいことはその後のことです」
「後、ですか?」
「ええ、あなたとご両親を迎え入れたいのです」
「……え?」

 トゥーリア嬢は、レーゼル様の言葉に固まっていた。
 それは当然の反応だろう。彼は、驚くべきことを言っている。それがどういう意味であるかは、考えるまでもないことだ。

「私は、あなたの勇気に惚れ込んでいます。できれば妻に迎えたい。デュオーラム伯爵家が存続するなら話は別ですが、そうでないなら婚約していただきたい」
「それは……でも、デュオーラム伯爵家がなくなったら、利益はありませんよ?」
「利益はあなた自身です。心強い妻を迎えられるよりも大きなことなどないでしょう」

 レーゼル様は、そのように言いながら笑みを浮かべていた。
 彼は冗談を言う人ではない。これもまず間違いなく、本気であるだろう。
 彼は伯爵令嬢ではなくてもトゥーリア嬢と婚約したがっている。それだけの価値を、彼女に見出しているのだ。
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