妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?

木山楽斗

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43.彼女の覚悟

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「トゥーリア嬢!」
「お兄様……」
「トゥーリア……僕を殺すのか? それも良いだろう。そうすれば、僕は益々君の中から消えない存在になる」

 先程の言葉を受けて、トゥーリア嬢が何をするか。それを考えた私は、彼女を止めなければならないと思った。
 しかし私が呆気に取られている内に、彼女は拘束されているチャルリオ様の前まで行っていた。それはリオネル様でさえ、気付かない程に静かな動きだったようである。

「心配しなくても、お兄様のことは忘れませんよ。私はお兄様の妹ですからね」
「ほう? 嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「ですが、私はお兄様に負けたりはしません。私の道は、私が切り開いてみせます」
「……何?」

 トゥーリア嬢は、チャルリオ様に堂々と啖呵を切った。
 その直後、辺りには赤いものが飛び散った。トゥーリア嬢が、そのナイフを使ったのだ。

 ただ彼女が刺したのは、チャルリオ様ではない。彼は今、妹の行動に目を丸めている。
 それは当然だ。トゥーリア嬢が刺したのは、自分自身だ。彼女は自らの頬――それもチャルリオ様が切り裂いた方に再びナイフを刺し、そのまま切り裂いたのである。
 彼女の頬からは、止まりかけていた血が再び流れ始めた。しかしそれでもトゥーリア嬢は、力強い視線を目下のチャルリオ様に向けている。

「トゥ、トゥーリア……お前、何をっ……」
「私はお兄様に屈しません。こんな傷がなんだというのですか……」
「き、君はっ……」
「一つ言わせていただきます……私はお兄様のことが嫌いです。結局の所あなたは、力で私を支配しようとした。私はあなたを軽蔑します」
「ま、待ってくれ、トゥーリア。僕はただ……」

 トゥーリア嬢は、ゆっくりとチャルリオ様に背を向けた。
 それに対して彼は、縋るような目を向けている。愛する彼女からの明確な拒絶、それはかなり効果が大きかったようだ。彼の目からは、絶望が伝わってくる。
 そんな彼を一瞥もせず、トゥーリア嬢は歩いていた。その堂々とした様子は、見事なものだ。ただ私としては心配になってくる。その頬から、先程までよりも血が流れているからだ。

「……トゥーリア嬢、なんて無茶を」
「アルリア嬢……ありがとうございます」

 私はトゥーリア嬢に駆け寄って、彼女が持っていた私のハンカチを頬に当てる。
 チャルリオ様にこれ以上余計なことを言わせないために、彼女は背筋を伸ばして、痛そうな顔一つもしない。それは見事ではあるのだが、もう少し自分の体を労わってもらいたいものだ。
 とはいえ、その甲斐もあってかチャルリオ様は項垂れている。トゥーリア嬢の言葉が、相当胸に突き刺さったらしい。先程まで騒がしかったというのに、黙り込んでいる。

「……見事だ」
「……うん?」

 そんな風にチャルリオ様の様子を伺っていた私は、聞き覚えのある声にそちらの方を向いた。
 するとそこには、見覚えのある顔があった。レーゼル・フェリバー辺境伯が、そこにはいたのである。
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