43 / 70
43.彼女の覚悟
しおりを挟む
「トゥーリア嬢!」
「お兄様……」
「トゥーリア……僕を殺すのか? それも良いだろう。そうすれば、僕は益々君の中から消えない存在になる」
先程の言葉を受けて、トゥーリア嬢が何をするか。それを考えた私は、彼女を止めなければならないと思った。
しかし私が呆気に取られている内に、彼女は拘束されているチャルリオ様の前まで行っていた。それはリオネル様でさえ、気付かない程に静かな動きだったようである。
「心配しなくても、お兄様のことは忘れませんよ。私はお兄様の妹ですからね」
「ほう? 嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「ですが、私はお兄様に負けたりはしません。私の道は、私が切り開いてみせます」
「……何?」
トゥーリア嬢は、チャルリオ様に堂々と啖呵を切った。
その直後、辺りには赤いものが飛び散った。トゥーリア嬢が、そのナイフを使ったのだ。
ただ彼女が刺したのは、チャルリオ様ではない。彼は今、妹の行動に目を丸めている。
それは当然だ。トゥーリア嬢が刺したのは、自分自身だ。彼女は自らの頬――それもチャルリオ様が切り裂いた方に再びナイフを刺し、そのまま切り裂いたのである。
彼女の頬からは、止まりかけていた血が再び流れ始めた。しかしそれでもトゥーリア嬢は、力強い視線を目下のチャルリオ様に向けている。
「トゥ、トゥーリア……お前、何をっ……」
「私はお兄様に屈しません。こんな傷がなんだというのですか……」
「き、君はっ……」
「一つ言わせていただきます……私はお兄様のことが嫌いです。結局の所あなたは、力で私を支配しようとした。私はあなたを軽蔑します」
「ま、待ってくれ、トゥーリア。僕はただ……」
トゥーリア嬢は、ゆっくりとチャルリオ様に背を向けた。
それに対して彼は、縋るような目を向けている。愛する彼女からの明確な拒絶、それはかなり効果が大きかったようだ。彼の目からは、絶望が伝わってくる。
そんな彼を一瞥もせず、トゥーリア嬢は歩いていた。その堂々とした様子は、見事なものだ。ただ私としては心配になってくる。その頬から、先程までよりも血が流れているからだ。
「……トゥーリア嬢、なんて無茶を」
「アルリア嬢……ありがとうございます」
私はトゥーリア嬢に駆け寄って、彼女が持っていた私のハンカチを頬に当てる。
チャルリオ様にこれ以上余計なことを言わせないために、彼女は背筋を伸ばして、痛そうな顔一つもしない。それは見事ではあるのだが、もう少し自分の体を労わってもらいたいものだ。
とはいえ、その甲斐もあってかチャルリオ様は項垂れている。トゥーリア嬢の言葉が、相当胸に突き刺さったらしい。先程まで騒がしかったというのに、黙り込んでいる。
「……見事だ」
「……うん?」
そんな風にチャルリオ様の様子を伺っていた私は、聞き覚えのある声にそちらの方を向いた。
するとそこには、見覚えのある顔があった。レーゼル・フェリバー辺境伯が、そこにはいたのである。
「お兄様……」
「トゥーリア……僕を殺すのか? それも良いだろう。そうすれば、僕は益々君の中から消えない存在になる」
先程の言葉を受けて、トゥーリア嬢が何をするか。それを考えた私は、彼女を止めなければならないと思った。
しかし私が呆気に取られている内に、彼女は拘束されているチャルリオ様の前まで行っていた。それはリオネル様でさえ、気付かない程に静かな動きだったようである。
「心配しなくても、お兄様のことは忘れませんよ。私はお兄様の妹ですからね」
「ほう? 嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「ですが、私はお兄様に負けたりはしません。私の道は、私が切り開いてみせます」
「……何?」
トゥーリア嬢は、チャルリオ様に堂々と啖呵を切った。
その直後、辺りには赤いものが飛び散った。トゥーリア嬢が、そのナイフを使ったのだ。
ただ彼女が刺したのは、チャルリオ様ではない。彼は今、妹の行動に目を丸めている。
それは当然だ。トゥーリア嬢が刺したのは、自分自身だ。彼女は自らの頬――それもチャルリオ様が切り裂いた方に再びナイフを刺し、そのまま切り裂いたのである。
彼女の頬からは、止まりかけていた血が再び流れ始めた。しかしそれでもトゥーリア嬢は、力強い視線を目下のチャルリオ様に向けている。
「トゥ、トゥーリア……お前、何をっ……」
「私はお兄様に屈しません。こんな傷がなんだというのですか……」
「き、君はっ……」
「一つ言わせていただきます……私はお兄様のことが嫌いです。結局の所あなたは、力で私を支配しようとした。私はあなたを軽蔑します」
「ま、待ってくれ、トゥーリア。僕はただ……」
トゥーリア嬢は、ゆっくりとチャルリオ様に背を向けた。
それに対して彼は、縋るような目を向けている。愛する彼女からの明確な拒絶、それはかなり効果が大きかったようだ。彼の目からは、絶望が伝わってくる。
そんな彼を一瞥もせず、トゥーリア嬢は歩いていた。その堂々とした様子は、見事なものだ。ただ私としては心配になってくる。その頬から、先程までよりも血が流れているからだ。
「……トゥーリア嬢、なんて無茶を」
「アルリア嬢……ありがとうございます」
私はトゥーリア嬢に駆け寄って、彼女が持っていた私のハンカチを頬に当てる。
チャルリオ様にこれ以上余計なことを言わせないために、彼女は背筋を伸ばして、痛そうな顔一つもしない。それは見事ではあるのだが、もう少し自分の体を労わってもらいたいものだ。
とはいえ、その甲斐もあってかチャルリオ様は項垂れている。トゥーリア嬢の言葉が、相当胸に突き刺さったらしい。先程まで騒がしかったというのに、黙り込んでいる。
「……見事だ」
「……うん?」
そんな風にチャルリオ様の様子を伺っていた私は、聞き覚えのある声にそちらの方を向いた。
するとそこには、見覚えのある顔があった。レーゼル・フェリバー辺境伯が、そこにはいたのである。
827
お気に入りに追加
2,212
あなたにおすすめの小説

邪魔者はどちらでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
レモンズ侯爵家の長女である私は、幼い頃に母が私を捨てて駆け落ちしたということで、父や継母、連れ子の弟と腹違いの妹に使用人扱いされていた。
私の境遇に同情してくれる使用人が多く、メゲずに私なりに楽しい日々を過ごしていた。
ある日、そんな私に婚約者ができる。
相手は遊び人で有名な侯爵家の次男だった。
初顔合わせの日、婚約者になったボルバー・ズラン侯爵令息は、彼の恋人だという隣国の公爵夫人を連れてきた。
そこで、私は第二王子のセナ殿下と出会う。
その日から、私の生活は一変して――
※過去作の改稿版になります。
※ラブコメパートとシリアスパートが混在します。
※独特の異世界の世界観で、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。
ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。
ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」
ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」
ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」
聞こえてくる声は今日もあの方のお話。
「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16)
自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。
そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。
しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。
※カクヨムにも投稿しています!

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる