妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね？

３２．恥ずかしいこと

「……チャルリオ伯爵令息との関係は普通の兄妹だったと聞いていますが、もう少し詳しく聞かせていただくことはできますか？」
「詳しく、ですか？」
「ええ、場合によっては、トゥーリア嬢がチャルリオ伯爵令息を説得する役割を担うかもしれませんからね。そのための足掛かりになるかもしれません」

　リオネル様は、トゥーリア嬢に対して質問をした。
　それは私としても、少し気になっていたことだ。二人の兄妹関係、それは普通だったと聞いているが、本当なのだろうか。何か片鱗などがあったかもしれない。

「……本当に特別なことはなかったと思います。お兄様はそこまで私に干渉することはありませんでした。適切な距離を保っていたというか、でも私が困っていたら、助けてくれました」
「なるほど、良いお兄様といえますかね……」

　トゥーリア嬢の言葉を受けて、リオネル様はこちらを見てきた。
　彼は、公爵家の嫡子である。つまりは長男だ。兄というものについては、詳しくないということだろう。私の意見を、求めているようだ。

「私もそんな感じですかね……ああいや、家はもう少し仲が良いかもしれません」
「仲が良い、ですか？」
「ええ、私は結構お兄様にべったりだったというか……」
「なるほど、そうでしたか」

　トゥーリア嬢もリオネル様も、私のことを見つめていた。
　その視線に、思わず照れてしまう。兄にべったりだったという事実は、なんというか結構恥ずかしいものだ。兄妹の仲が良いというのは、別に恥じることでもないというのに。

「まあ、兄妹といっても色々ある訳ですから、お二人のどちらも一般的ではあるのでしょうね。度を越した溺愛などをしていなければ」
「そうですね。私のお兄様もお優しい人ですが、別に溺愛などはしていません」

　度を越した愛情などは、お兄様にはなかったと思う。普通に愛してくれている。そういった感じだ。
　過去のチャルリオ様は、どうだったのだろうか。元々変だったのか、歯車が狂ったのか、それは気になる所だ。

「……御歓談中、失礼します！」
「え？」

　私が色々と考えていると、部屋の戸が激しく叩かれて戸が開いた。
　そして部屋の中に、慌てた様子のメイドが入って来る。そのメイドの表情は、血の気が引いていた。何か問題が起きている。それは表情を見ればわかることだ。

「……何かあったのですか？」
「チャルリオ様が、フェリバー辺境伯を……」
「なっ……！」

　メイドの言葉に、私達は固まることになった。
　私達の来訪は、一歩遅かったということかもしれない。どうやらチャルリオ様は、既にことを起こしていたようだ。