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37.厄介な事実

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「アンデルト伯爵夫人まで馬鹿ではなかったということには、正直言って安心している」

 再度アンデルト伯爵家の屋敷を訪ねた後、ギーゼル様は安堵のため息をついていた。
 夫人との話し合いというものは、そこまで拗れることもなかった。彼女は忌々しそうにしながらも、きちんと自分達の非を認めたのである。

「まあ、曲がりなりにも伯爵家の夫人ですからね……」
「といっても、娘である伯爵令嬢があれでは俺としても心配だったのさ」
「まあ、気持ちはわからない訳でもありませんね……」

 ギーゼル様の中で、イフェルーナの評価というものは地に落ちているようだった。
 それは仕方ないことである。彼女は貴族の器ではない。それは紛れもない事実である。
 そう考えると、これからのアンデルト伯爵家の未来は暗いものかもしれない。アンデルト伯爵夫人がなんとかしても、イフェルーナが家を背負う立場となった途端に破綻するのだから。

 それを避けられるとしたら、彼女が変わるか、良い婿を迎えられるかのどちらかが起こる必要があるといえる。
 その可能性については、正直わからない。ただ、どちらにしても私には関係がないことである。それなりに貴族としての自覚はあったつもりだが、追放された身である私は、そういったしがらみから解放されている。

「……レオールさん、ギーゼルです。開けてもらえますか?」
「ええ、ただいま」

 私とギーゼル様は、そんな話をしながら宿屋に帰って来ていた。
 内密な話ができる場所は、ここくらいしかないということで、集合場所となったのである。
 部屋の中に入ると、レオールさんとブレットンさん、それからメアリーがいた。今回の件に関わった人達がいる部屋の空気は、なんだか少し重い。

「……えっと、何かあったのですか?」
「ええ、少々厄介な事実が判明しまして……」
「厄介な事実、ですか?」

 私の問いかけに対して、レオールさんは表情を歪めていた。
 また何か問題が起こったということだろうか。それはなんとも、嫌なことである。
 とはいえ、起こったからには対処していくしかない。何が起こったのか、とりあえず聞いてみるしかないだろう。

「聞かせてください」
「結論から申し上げますと、アンデルト伯爵家のイフェルーナ嬢は、伯爵家の血を引いておりません」
「え?」
「どうやら彼女は、アンデルト伯爵夫人が別の男性との間に設けた子供であるようです」

 レオールさんの言葉に、私は固まっていた。
 それは確かに、厄介極まりない事実である。どうやら私は、アンデルト伯爵家というものを根幹から変えるその事柄に対処しなければならないらしい。
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