私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗

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36.虚勢を張って

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「……いい気にならないでください」
「……え?」

 ギーゼル様が去っていくのを見つめていた私は、突然声をかけられて少し驚いた。
 聞こえてきた方向を見ると、イフェルーナがその表情を歪めてこちらを見ていることがわかった。どうやら彼女は、矛先を変えたらしい。

「あの男を利用して、アンデルト伯爵家を牛耳ろうとでもしていたのでしょうけれど、そんなに簡単に行くと思わないでください」
「……別にそんなことを思ったことはありません」
「なんですって?」

 イフェルーナは、私に対して忌々しそうに言葉を放っている。
 彼女のそういった態度も、私にとっては見慣れたものだ。ただその不愉快な態度というものも、今は少々違って見える。

「イフェルーナ嬢、あなたには今まで色々なことを言われてきましたね。それに私は傷ついたこともありました。ひどい言葉をかけられてきましたからね。時には直接的に被害を受けたこともありました」
「そ、それがなんだというのですか?」
「今わかりました。あなたがそういったことをしてきたのは、私が怖かったからなのでしょう?」
「……なっ」

 私の言葉に、イフェルーナは目を見開いて固まった。
 彼女はその表情のまま、動かない。いや、よく見てみると体が震えている。その震えは一体、どういった感情の表れなのだろうか。

「あなたは臆病なのでしょうね……だからそうやって、虚勢を張る。自分を強く見せようと、必死なのではありませんか?」
「ち、違う、私はっ……」
「そういう所は、お父様そっくりですね。なんだか少し、可哀想にさえ思えてきました」
「わ、私を侮辱するなんて……」

 イフェルーナは、言葉を詰まらせていた。
 どうやら彼女には、先程の言葉がかなり効いているようだ。図星だったということだろうか。
 そうだとしたらなんとも、愚かなことだ。彼女はその虚勢のせいで、全てを失うことになるのだから。

「まあ、今更後悔した所で何もかもが遅い訳ですが……」
「や、やめてください。私にそんな目をっ……」
「今回の件に懲りたなら、もう大人しくしていることですね。アンデルト伯爵夫人は、まだ賢明な判断ができる人ですから、そこまでひどいことにはならないでしょう」

 私も、ギーゼル様のようにイフェルーナに背を向けた。
 今回の一件で、彼女はその考えを改めるだろうか。それは正直、よくわからない。
 ただ、改められないとしたらそれまでというだけである。

 それは最早、私に関係がないことだ。
 多少同情したが、それでもイフェルーナには恨みもある。彼女の未来なんてものを、私は気に掛けたりはしないのだ。
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