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35.時間の無駄

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「こ、この私を侮辱するのですか!」
「侮辱されたくないというなら、それ相応の言動というものが必要になってくる。あなたにはそれが、まったく持ってわかっていないようだな」
「す、好き勝手言って……」

 身勝手なことをしたイフェルーナに対して、ギーゼル様は怒りさえも覚えているようだ。
 彼は貴族としてきちんと自覚と意思を持っている人である。そんな彼からすれば、イフェルーナのような存在は不愉快なのかもしれない。

「自分が何をしたのか、きちんと理解しろ。これは我々グライム辺境伯家への裏切り行為だ。その代償は、決して安いものではないぞ」
「外から急にやって来たあなたが、どうしてそんなに偉そうにものを言えるのか、私にはまったく理解できません」
「なんだと?」
「今回の件で、こちらは侮辱されたのです。自分達の行為を棚に上げて、好き勝手言われるのは甚だ不愉快というものです」

 イフェルーナは、ギーゼル様のことを睨みつけていた。
 その視線に対して、彼はため息をつく。話にならない。ギーゼル様の表情からは、そのような感情が伝わってきた。

「まさか、だからメアリーを連れ去ったとでも言うつもりか?」
「ええ、そうです。あなた達にはわからせなければなりませんでしたからね。良い気になっているあなた達のことが気に食わなかった! アンデルト伯爵家の方が上であるということを、あなた達に教えることこそが、私の使命だったのです!」
「思い上がった考え方だな。俺も今まで色々な貴族達と接してきたが、あなた程に身勝手な貴族は初めてだ」

 ギーゼル様は信じられないかもしれないが、私はイフェルーナのような貴族をもう一人知っている。
 それはかつて私に、婚約破棄を言い渡してきたバルドン様だ。彼も家のことよりも自分のプライドを優先するような人だった。案外そういう人は、多いということかもしれない。

「残念ながら、あなたと話している時間というものは、無駄な時間であるようだ。有意義な時間ではないことがよくわかった」
「な、なんですって?」
「今回の事件の罪を、あなたが被るということはないだろう。しかしながら、代償というものは存在している。精々それを忘れないことだな」

 ギーゼル様は、イフェルーナに背を向けた。
 彼の判断は、正しいといえる。あの妹と話しても家同士の話は一向に進まないだろう。彼女は家のことなんて何も知らないのだ。
 彼女は器ではないのである。そういう所は、あのお父様とそっくりだといえるかもしれない。
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