私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗

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32.不可解な人質

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「ボルキア! 離しなさい! どういうつもりですか! この私に、こんなことをしてっ!」
「うるさいな、黙ってろ!」
「うぐっ……!」
「次余計なことを言ったら、首を掻っ切ってやるからな……」

 人質となったらしきイフェルーナは、ボルキアに締め付けられて、苦痛の表情を浮かべていた。
 彼女としても、状況をよくわかっていないらしい。飼い犬に手を噛まれたということだろうか。どうやらボルキアは、イフェルーナの望みとは違う行動をしているようだ。
 ただそれは、別におかしいことという訳でもない。あのゴロツキが、素直に人に従うかと言ったら、誰もがクビを横に振るだろう。制御できる者達ではないのだ。

「ボルキア! 人質を解放しろ!」
「解放なんてする訳ないだろうが! こいつは大切な交渉材料なんだからな! 腐っても伯爵令嬢だ。お前達も手出しなんてできないだろう」
「人質を解放しろ。お前は包囲されている」
「馬鹿がっ! 包囲していようが、こいつがいる限り手出しなんてできないだろうがよぉ! 俺はこのまま逃げるんだ! こいつを売り払って国外に逃亡だ!」

 ボルキアは、騎士団に対して下卑た笑みを浮かべていた。
 こちらはドステロとは違い、それなりに悪知恵が働くようだ。笑みを浮かべながらも周囲を警戒している。あれでは、騎士団として手は出しにくいだろう。
 とはいえ、騎士団がこういった事態を想定していないとも思えない。いざとなったら、行動に出るはずだ。

「そのようなことができると思っているのか? 国外に出る前に拘束されるのが関の山だ」
「……ああん?」

 そんなことを考えていると、建物の中から一人の騎士が現れた。
 それは、レオールさんだ。彼はゆっくりと、後ろからボルキアに近づいていく。

「誰かと思えば、レオールのおっさんかぁ……はっ! あんただって手を出すことはできないだろうが。負け惜しみを口にするんじゃない」
「きゃあっ!」
「そうか。お前は所詮その程度か……」
「なんだと?」

 レオールさんは、ゆっくりと首を横に振っていた。
 それにボルキアは、反応している。彼にとってレオールさんという人間は、特別な人間なのだろうか。他の騎士達とは、少々対応が違うような気がする。
 いや、良く考えてみれば、二人は何度もぶつかってきたゴロツキ集団の頭領と騎士団のまとめ役だ。同じような立場であるからこそ、ボルキアは刺激されているのかもしれない。

「人質を取って逃げることしかできない腰抜けだと、言っているんだ。そのまま尻尾を巻いて逃げることしかできないとは、情けない限りだ」
「……ふざけるなよ」

 ボルキアは、明らかに興奮していた。
 どうやら彼の方も、悪知恵が働くだけで直情的ではあるようだ。
 ボルキアはその感情のままに、イフェルーナの拘束を解く。彼の目には最早、レオールさんしか映っていないのだろう。そのまま彼は、手に持っていた剣を振り上げた。

「俺を舐めるなっ!」
「……」
「あぎゃっ――」

 ボルキアの剣が、レオールさんに届くことはなかった。
 そうなる前に、彼は切り裂かれたのだ。ボルキアはその場にゆっくりと膝をついた。そして彼は、そのまま力なく倒れるのだった。
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