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28.見つからないメイド

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 私はギーゼル様とともに、屋敷の中を歩いていた。
 一応屋敷を回ってみたが、メイドのメアリーの姿は見当たらなかった。使用人達にも少し話を聞いてみたが、どうやら彼女の姿は見ていないらしい。

「とはいえ、その証言についてはどこまで信憑性があるのかは微妙な所です。アンデルト伯爵夫人側の人達ですからね」
「まあ、そうだな」

 基本的に、アンデルト伯爵家の人間は夫人の方についている。私がこの屋敷にいた時から、彼ら彼女らはそちら側なのだ。
 それは別に、咎めるようなことではないと思っている。自分達の生活がかかっている使用人達が、雇い主であるお父様やアンデルト伯爵夫人に逆らえる訳もないからだ。その点に関しては、ブレットンさんやメアリーが特別だったといえる。

「だが、メイドのメアリーをアンデルト伯爵夫人が連れ去る意味もわからない。俺達と無闇に敵対するなんてことは望んでいないだろうし、始末する対象としても微妙だ」
「私達に対する人質にするということではありませんか? 敵対するつもりはなくても、保険が欲しかったのかもしれません」
「だとしたら愚かなものだな。これは既に、グライム辺境伯家との対立行為だ。これがアンデルト伯爵夫人の意思であるというなら、こちらも少々手荒なことをしなければならない」

 ギーゼル様は、その目を細めていた。
 グライム辺境伯の代理としてではなく、それは彼自身としての怒りであるように感じられる。それは面子がかかっているからだろうか。
 確かに、もしもこれがアンデルト伯爵夫人の行為だとしたら、グライム辺境伯家は舐められていることになる。彼としても、ここは引き下がれない場面ということなのかもしれない。

「とはいえ、決めつけるのは早計であるか。アンデルト伯爵夫人が今回の件について何も関与していない可能性もある訳だしな。というか、俺としてはそちらの方が納得はできる。夫人の先程の態度から、そのようなことをするとは思えないからな」
「……そういうことなら、一つ思い当たる人がいます」
「うん?」

 ギーゼル様の話を聞きながら、私はある人の存在を思い出した。
 この状況で、輪を乱すようなことをする人に私は心当たりがあるのだ。

「腹違いの妹のイフェルーナです。彼女ならそういったことをやりかねないと思います」
「ほう?」

 妹であるイフェルーナの存在を、私はこれまで気にしていなかった。
 彼女は母親であるアンデルト伯爵夫人に従っているものだと、思っていたからだ。
 ただ、もしかしたら独自に行動を開始しているかもしれない。彼女は、アンデルト伯爵家のためだとか勘違いしてこのようなことをしかねない性格なのだ。
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