12 / 12
12.歓迎の意思
しおりを挟む
「アルティリア嬢、君の来訪を歓迎しよう」
グライム辺境伯は、私に対してとてもわかりやすく歓迎の意思を表示してくれた。
それに私は、少し驚いている。そもそも屋敷の中に入れてもらえたことが驚きだ。私は突然来訪した無礼者であるというのに。
「ヴォルバルトから話は聞いている。色々と大変な立場であるようだな」
「え? あ、はい……ヴォルバルト、さん?」
グライム辺境伯が出した名前に、私は首を傾げることになった。
彼が口にしたのは、私が知らない人の名前である。ただ、辺境伯の口振りからして、その人は私のことをよく知っているようだ。
いや、もしかしたら勘違いだろうか。グライム辺境伯は、私と誰かを間違っているのかもしれない。
「おっと、君からすればブレットンという名前の方が馴染み深かったかな?」
「ブレットンさん、ですか? えっと、ヴォルバルトさんという方が、ブレットンさんということなのでしょうか?」
「ああ、彼の本名だ」
「本名……」
ブレットンさんの名前は、どうやら偽名だったようである。
それは考えてみれば、当然のことかもしれない。アンデルト伯爵家に忍び込むにあたって、本当の名前を正直に使うなんて馬鹿げた話だ。
そのことを理解した私は、さらなる疑問に思わずグライム辺境伯の方を見た。すると彼は、笑みを浮かべている。
「ヴォルバルトとは、旧知の仲でね。君くらいの年の子は知らないかもしれないが、以前この辺りでは戦があったんだ。隣国から攻められてね」
「私が生まれる前の話、ですよね? 知識としてはありますが……」
「この辺りで戦いが起こったということは、矢面に立つのは私だ。兵を率いて戦った。今でもその時のことはよく覚えている。長い戦いだった」
グライム辺境伯の表情は、そこで少し強張った。
戦の記憶というものは、彼にとって良いものという訳ではないのだろう。それがその表情からはよく伝わってくる。
「そんな中でともに戦地に立った者達のことを、私は忘れていない。ヴォルバルトもその一人だった。彼は、勇敢な戦士であった。いや、彼は今も戦士だ。私では想像できない程の苦しみの中で戦い抜いている」
「それは……」
「端的に聞かせてもらいたい。ヴォルバルトはやったのか? 君がここに来たということは、悲願を成し遂げたのか? それは是非とも、聞いておきたい所だ」
そこで私は、思わず固まってしまった。
グライム辺境伯が、とても真剣な顔をしていたからだ。
つまり彼も、事情を知っているということだろう。彼は私よりもずっと前から、ブレットンさんのことを気にしていたのだ。
グライム辺境伯は、私に対してとてもわかりやすく歓迎の意思を表示してくれた。
それに私は、少し驚いている。そもそも屋敷の中に入れてもらえたことが驚きだ。私は突然来訪した無礼者であるというのに。
「ヴォルバルトから話は聞いている。色々と大変な立場であるようだな」
「え? あ、はい……ヴォルバルト、さん?」
グライム辺境伯が出した名前に、私は首を傾げることになった。
彼が口にしたのは、私が知らない人の名前である。ただ、辺境伯の口振りからして、その人は私のことをよく知っているようだ。
いや、もしかしたら勘違いだろうか。グライム辺境伯は、私と誰かを間違っているのかもしれない。
「おっと、君からすればブレットンという名前の方が馴染み深かったかな?」
「ブレットンさん、ですか? えっと、ヴォルバルトさんという方が、ブレットンさんということなのでしょうか?」
「ああ、彼の本名だ」
「本名……」
ブレットンさんの名前は、どうやら偽名だったようである。
それは考えてみれば、当然のことかもしれない。アンデルト伯爵家に忍び込むにあたって、本当の名前を正直に使うなんて馬鹿げた話だ。
そのことを理解した私は、さらなる疑問に思わずグライム辺境伯の方を見た。すると彼は、笑みを浮かべている。
「ヴォルバルトとは、旧知の仲でね。君くらいの年の子は知らないかもしれないが、以前この辺りでは戦があったんだ。隣国から攻められてね」
「私が生まれる前の話、ですよね? 知識としてはありますが……」
「この辺りで戦いが起こったということは、矢面に立つのは私だ。兵を率いて戦った。今でもその時のことはよく覚えている。長い戦いだった」
グライム辺境伯の表情は、そこで少し強張った。
戦の記憶というものは、彼にとって良いものという訳ではないのだろう。それがその表情からはよく伝わってくる。
「そんな中でともに戦地に立った者達のことを、私は忘れていない。ヴォルバルトもその一人だった。彼は、勇敢な戦士であった。いや、彼は今も戦士だ。私では想像できない程の苦しみの中で戦い抜いている」
「それは……」
「端的に聞かせてもらいたい。ヴォルバルトはやったのか? 君がここに来たということは、悲願を成し遂げたのか? それは是非とも、聞いておきたい所だ」
そこで私は、思わず固まってしまった。
グライム辺境伯が、とても真剣な顔をしていたからだ。
つまり彼も、事情を知っているということだろう。彼は私よりもずっと前から、ブレットンさんのことを気にしていたのだ。
172
お気に入りに追加
843
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
【完結】私を虐げた継母と義妹のために、素敵なドレスにして差し上げました
紫崎 藍華
恋愛
キャロラインは継母のバーバラと義妹のドーラから虐げられ使用人のように働かされていた。
王宮で舞踏会が開催されることになってもキャロラインにはドレスもなく参加できるはずもない。
しかも人手不足から舞踏会ではメイドとして働くことになり、ドーラはそれを嘲笑った。
そして舞踏会は始まった。
キャロラインは仕返しのチャンスを逃さない。
【完結済】望まれて正妃となったはずなのに、国王は側妃に夢中のようです
鳴宮野々花
恋愛
大陸の中心にある大国ラドレイヴン。その国王ジェラルドに熱望され、正妃として嫁ぐことになった小国カナルヴァーラの王女アリア。
当初ジェラルドはアリアを溺愛したが、その愛は長くは続かなかった。飽きっぽいジェラルドはすぐに見境なく浮気をはじめ、ついにはあっさりと側妃を迎え入れてしまう。相手は自国のとある伯爵家の娘だったが、彼女の幼稚な言動からその出自に疑問を持ちはじめるアリア。
一方アリアの専属護衛騎士となったエルドは、アリアの人柄とそのひたむきさに徐々に惹かれていき────
嫁ぎ先の大国で冷遇されながらも責務を果たそうと懸命に頑張る王妃と、彼女を愛する護衛騎士との秘めた恋の物語です。
※※作者独自の架空の世界の物語です。いろいろと緩い設定ですがどうぞ広い心でお読みくださいませ。
※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
国が滅ぼされる原因となる男のモブ妻ですが、死にたくないので離縁します!~離縁したらなぜか隣国の皇太子に愛されました~
Na20
恋愛
夫と王女の浮気現場を目撃した私は、その衝撃で前世の記憶を思い出した。どうやら私は小説の最初の最初に出てくる一国を滅ぼす原因となる男(夫)の妻に転生してしまったようだ。名もなきモブ妻は夫の連座となり処刑される運命…
(そんなのやってられるか!)
なんとか死の運命から逃れるために、王女の婚約者である隣国の皇太子に一か八か願い出る。
そうして気がつけばなぜか皇太子に愛されていて…?
※ご都合主義ですのでご了承ください
※ヒロインはほぼ出てきません
※小説家になろう様でも掲載しております
入れ替わり令嬢、初めて恋を知る
朝顔
恋愛
伯爵令嬢のアンドレアは、自分と全く同じ容姿の双子の兄がいた。
外見は同じでも、性格は真逆。遊び人で問題を起こす兄のために、ことあるごとに入れ替わりを頼まれていた。
ある時、兄は書き置きを残して女性と姿を消してしまい、家族は大混乱。
兄が戻ってくるまでアンドレアは、隣国にある貴族の男子が通う全寮制の学園に行くことになってしまった。
友人の協力を得て、女であるとバレないように、ただ大人しく目立たないように過ごそうとするが、思いとは全く逆の方向へ…。
王子様との出会いや、いじめてくる同級生、次々と問題が出て来て、全然大人しくしていられない。
そして、芽生え始めた恋心に気がついて…
アンドレアが恋に友情に奮闘するお話です。
重複投稿
2021/09/19完結済み
聖女を追放した王子「貴様の力が必要になった。すぐに帰国せよ!」 聖女「いいですよ。五年後くらいになりますが」
七辻ゆゆ
ファンタジー
今の依頼と、それから次の依頼もありますから、そのくらい後になりますね。
聖女として生まれた以上、とにかくたくさんの人を救いたいのです。そのためには目の前の人を救うのが一番効率的でしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる