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10.唯一の存在
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『娘が生まれて、アフェリアはヴェルークとともにささやかながらも幸せな生活を送っていました。しかしそれは長くは続かなかった。アンデルト伯爵による介入があったのです』
ブレットンさんの手紙の文字は、かなり歪んでいた。
ただでさえ殴り書きのようなものだったのが、そこからさらに文字が崩れていた。
それはきっと、震えていたからなのだろう。この手紙をしたためることに関しても、きっと勇気がいることだったのだ。
『アンデルト伯爵は、三人が暮らす家を訪れ、娘を強引に奪い去りました。彼としては、伯爵家の血を引く者を放っておけないという主張だったようですが、本当の理由はそうではありません。あの方はそのような殊勝な方ではない。自分が支配していたアフェリアが逃げ出したことに対して、報復がしたかったということでしょう』
ブレットンさんの見解については、私も同意することができた。
歪んでいるお父様は、きっとお母様に対する執着で私を手元に置いていたのだ。アンデルト伯爵夫人がどれだけ反対しても私を妾の子としなかったのは、お母様に対する当てつけに他ならない。
『娘を失ったアフェリアは途方に暮れていました。そんな彼女のことを不憫に思って、ヴェルークはアンデルト伯爵家に抗議に行きました。しかしそれは、アンデルト伯爵の逆鱗に触れる行為だったのです。彼は帰って来ませんでした。アンデルト伯爵が、秘密裏に手にかけたのです』
「なっ……!」
『娘を失い、好意を抱いていた男性を失い、アフェリアは絶望していました。しかしそれでも、彼女は懸命に生きようとしていた。ですが、それも叶わなかった。精神が弱くなっていた所に、逸り病が重なって、結果としてアフェリアも眠りについたのです』
手紙の内容に、私は震えることになった。
お父様の行いが、あまりにも残酷なものだったからだ。
元々ひどい人だとは思っていたが、これ程までとは思っていなかった。最低なんて言葉でも言い表せない程の悪人だと、私は認識を改める。
『それを見届けた後、私はアンデルト伯爵に対する復讐を決めました。アンデルト伯爵家に仕えて、ずっと隙を伺っていた。息子と、その嫁の仇を取ることが私の生きがいでした』
「……え?」
『そもそもの原因は、私にあるともいえます。アフェリアがアンデルト伯爵の元を離れられなかったのは、当時の私が病に倒れていたからです。心優しき彼女は、私のためにお金を稼いでくれていた。あの時私が潔く死んでいれば良かったのだと、今は思っております』
「そんな、それじゃあ……」
手紙を読みながら、私はブレットンさんの顔を思い出していた。
彼は一体、どんな思いでアンデルト伯爵家に仕えていたのだろうか。それを考えると、胸が苦しくなっていた。
そして、どうして彼の言葉に自分が従わなければならないと思ったのかも、理解することができた。ブレットンさんは、この世にたった一人だけ残った私にとって、家族といえる人だったのだ。
ブレットンさんの手紙の文字は、かなり歪んでいた。
ただでさえ殴り書きのようなものだったのが、そこからさらに文字が崩れていた。
それはきっと、震えていたからなのだろう。この手紙をしたためることに関しても、きっと勇気がいることだったのだ。
『アンデルト伯爵は、三人が暮らす家を訪れ、娘を強引に奪い去りました。彼としては、伯爵家の血を引く者を放っておけないという主張だったようですが、本当の理由はそうではありません。あの方はそのような殊勝な方ではない。自分が支配していたアフェリアが逃げ出したことに対して、報復がしたかったということでしょう』
ブレットンさんの見解については、私も同意することができた。
歪んでいるお父様は、きっとお母様に対する執着で私を手元に置いていたのだ。アンデルト伯爵夫人がどれだけ反対しても私を妾の子としなかったのは、お母様に対する当てつけに他ならない。
『娘を失ったアフェリアは途方に暮れていました。そんな彼女のことを不憫に思って、ヴェルークはアンデルト伯爵家に抗議に行きました。しかしそれは、アンデルト伯爵の逆鱗に触れる行為だったのです。彼は帰って来ませんでした。アンデルト伯爵が、秘密裏に手にかけたのです』
「なっ……!」
『娘を失い、好意を抱いていた男性を失い、アフェリアは絶望していました。しかしそれでも、彼女は懸命に生きようとしていた。ですが、それも叶わなかった。精神が弱くなっていた所に、逸り病が重なって、結果としてアフェリアも眠りについたのです』
手紙の内容に、私は震えることになった。
お父様の行いが、あまりにも残酷なものだったからだ。
元々ひどい人だとは思っていたが、これ程までとは思っていなかった。最低なんて言葉でも言い表せない程の悪人だと、私は認識を改める。
『それを見届けた後、私はアンデルト伯爵に対する復讐を決めました。アンデルト伯爵家に仕えて、ずっと隙を伺っていた。息子と、その嫁の仇を取ることが私の生きがいでした』
「……え?」
『そもそもの原因は、私にあるともいえます。アフェリアがアンデルト伯爵の元を離れられなかったのは、当時の私が病に倒れていたからです。心優しき彼女は、私のためにお金を稼いでくれていた。あの時私が潔く死んでいれば良かったのだと、今は思っております』
「そんな、それじゃあ……」
手紙を読みながら、私はブレットンさんの顔を思い出していた。
彼は一体、どんな思いでアンデルト伯爵家に仕えていたのだろうか。それを考えると、胸が苦しくなっていた。
そして、どうして彼の言葉に自分が従わなければならないと思ったのかも、理解することができた。ブレットンさんは、この世にたった一人だけ残った私にとって、家族といえる人だったのだ。
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