私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
9 / 40

9.執事からの手紙

しおりを挟む
 私は、メアリーが手配してくれた馬車に乗っていた。
 行き先は、聞いていない。とにかくこの馬車に乗るように、メアリーからは言われている。
 その馬車の中で、私はブレットンさんからもらった手紙を見てみることにした。彼が何を思ってあんなことをしたのか、その答えを私は求めているのだ。

『親愛なるアルティリアお嬢様へ
これから話すことは、他言無用でよろしくお願い致します』

 手紙に書いてある文字は、確かにブレットンさんの字であるように思える。
 しかしながら、その文字は乱雑だ。几帳面な彼が、こんな風に殴り書きするなんて珍しい。
 それはつまり、これが急いで書いた手紙であるということを物語っている。よくわからないが、急遽思い立ったりしたということだろうか。

『ことの始まりは、今から十七年程前のこと、アフェリアという一人のメイドが、アンデルト伯爵から受けた非道の数々が発端であるといえます』
「それって……」

 ある一人の女性の名前を見て、私は固まっていた。
 アフェリア、それは私の母の名前である。状況的に考えて、偶然同名の人物がいたという可能性はないだろう。十七年前といえば、丁度私が生まれた時くらいだ。

 お父様がアンデルト伯爵夫人と結婚する前から、お母様はメイドとして伯爵家に仕えていたらしい。そこでお父様は、あろうことか無理やり関係を持ったのだ。メイドという弱い立場だったお母様を、あの人は弄んだのである。

『仕える対象であるアンデルト伯爵からの要求を、彼女は断ることができませんでした。当時の彼女にはお金が必要でした。メイドをクビになる訳にはいかなかった。そこにアンデルト伯爵は漬け込み、そして結果として子供を授かった』

 ブレットンさんの手紙に書かれている内容は、私も知っていることだった。
 それは、アンデルト伯爵家の歪んだ内情だ。私は妾との子供でありながら正妻の娘として扱われている。丁度夫人と結婚した年に生まれたために、お父様はそう誤魔化したのだ。
 そうすることによって、彼は浮気の事実を揉み消そうとしたのだろう。もしくは、お母様との間にできた私に歪んだ愛情を向けており、手元に置いておきたかったのかもしれない。

『アフェリアは程なくして、アンデルト伯爵家から去りました。悩んだ末に、子供と二人で暮らしていくことを選んだのです。幸いにも彼女には良くしてくれる男性がいました。ヴェルークという青年です。彼はアフェリアとその娘のことを受け入れて、三人で暮らそうとしていたのです』

 お母様に親しくしていた男性がいた。それは、私も知らないことであった。
 いやそもそも、お母様が伯爵家の屋敷から出て行ったというのも初耳だ。私はお母様が、出産に耐え切れずに亡くなったと聞いている。
 しかし手紙の記述と、それは矛盾していた。ということは、お母様に関することで、アンデルト伯爵家は何かを隠していたということだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

異母妹に婚約者の王太子を奪われ追放されました。国の守護龍がついて来てくれました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「モドイド公爵家令嬢シャロン、不敬罪に婚約を破棄し追放刑とする」王太子は冷酷非情に言い放った。モドイド公爵家長女のシャロンは、半妹ジェスナに陥れられた。いや、家族全員に裏切られた。シャロンは先妻ロージーの子供だったが、ロージーはモドイド公爵の愛人だったイザベルに毒殺されていた。本当ならシャロンも殺されている所だったが、王家を乗っ取る心算だったモドイド公爵の手駒、道具として生かされていた。王太子だった第一王子ウイケルの婚約者にジェスナが、第二王子のエドワドにはシャロンが婚約者に選ばれていた。ウイケル王太子が毒殺されなければ、モドイド公爵の思い通りになっていた。だがウイケル王太子が毒殺されてしまった。どうしても王妃に成りたかったジェスナは、身体を張ってエドワドを籠絡し、エドワドにシャロンとの婚約を破棄させ、自分を婚約者に選ばせた。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

前世の記憶がある伯爵令嬢は、妹に籠絡される王太子からの婚約破棄追放を覚悟して体を鍛える。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

処理中です...