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6.思い詰めた執事
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「……アルティリアお嬢様」
「……ブレットンさん?」
お父様の部屋から出て来た私は、執事である老紳士ブレットンさんを見つけた。
彼はこのアンデルト伯爵家の中で、数少ない味方の一人だ。私のことをいつも気に掛けてくれており、私も頼りにしている。
もしかしたら私がお父様にひどいことを言われたと心配して、来てくれたのかもしれない。それはありがたいことではあるが、私はそんな彼に別れを告げなければならないだろう。
「ブレットンさん、私は……」
「……知っております。聞いていましたから」
「え?」
ブレットンさんの言葉に、私は驚いた。部屋の会話を聞いているなんて、思ってもいないことだったからだ。
屋敷の壁は薄いものではない。今彼が立っている場所に中の会話が漏れるなんてことはないだろう。
できた執事である彼が、盗み聞きをしていたということだろうか。いくら私が心配でも、彼はそういったことはしないと思っていたのだが。
「いらぬ気遣いかもしれませんが、荷物はまとめさせています。メアリーに申し付けていますから、後でお受け取りください」
「え? ええ……」
「すぐにお屋敷を出て行かれた方が良いでしょう。きっとこれから、良くないことが起こります」
ブレットンさんは、やけに話が早かった。中での会話を聞いていたとはいっても、行動が迅速過ぎるのではないだろうか。
それに、その表情が気になった。何かを決意したかのように強張ったその顔に、私は少し心配になった。
「ブレットンさん何かあったのですか?」
「……いいえ、そういう訳ではありません」
「それなら、どうしてそんなに苦しそうなんですか?」
「苦しくなどはありません。今はむしろ、ほっとしています。アルティリアお嬢様があの方の呪縛から解放されるのですから。強いて言えば、あなたと別れることが寂しくはありますが……」
ブレットンさんは、ゆっくりと天を仰いだ。
何もなかったとは、やはり思えない。彼の心を大きく揺さぶる何かが、あったのかもしれない。
とはいえ、私がそういった個人的なことに踏み込めるかというと、微妙な所だ。結局の所、私は他人でしかない。必要以上に踏み込むは、余計なお世話であるだろう。
「私も寂しく思っています」
「……そうですか。そう思っていただけるのは、嬉しい限りです」
「どうかお元気でいてください。体に気を付けて」
「アルティリアお嬢様も、どうかお元気で」
ブレットンさんの表情からは、親愛のようなものが感じられた。
そんな風に私を思ってくれる人がいたという事実に、思わず涙を浮かべてしまう。
だが、涙は我慢することにした。この場所から私は巣立つのだ。そのためにもできる限り前を見ていなければならない。
だから私は、ゆっくりと歩みを進めた。それをブレットンさんは静かに見守ってくれていた。
「……ブレットンさん?」
お父様の部屋から出て来た私は、執事である老紳士ブレットンさんを見つけた。
彼はこのアンデルト伯爵家の中で、数少ない味方の一人だ。私のことをいつも気に掛けてくれており、私も頼りにしている。
もしかしたら私がお父様にひどいことを言われたと心配して、来てくれたのかもしれない。それはありがたいことではあるが、私はそんな彼に別れを告げなければならないだろう。
「ブレットンさん、私は……」
「……知っております。聞いていましたから」
「え?」
ブレットンさんの言葉に、私は驚いた。部屋の会話を聞いているなんて、思ってもいないことだったからだ。
屋敷の壁は薄いものではない。今彼が立っている場所に中の会話が漏れるなんてことはないだろう。
できた執事である彼が、盗み聞きをしていたということだろうか。いくら私が心配でも、彼はそういったことはしないと思っていたのだが。
「いらぬ気遣いかもしれませんが、荷物はまとめさせています。メアリーに申し付けていますから、後でお受け取りください」
「え? ええ……」
「すぐにお屋敷を出て行かれた方が良いでしょう。きっとこれから、良くないことが起こります」
ブレットンさんは、やけに話が早かった。中での会話を聞いていたとはいっても、行動が迅速過ぎるのではないだろうか。
それに、その表情が気になった。何かを決意したかのように強張ったその顔に、私は少し心配になった。
「ブレットンさん何かあったのですか?」
「……いいえ、そういう訳ではありません」
「それなら、どうしてそんなに苦しそうなんですか?」
「苦しくなどはありません。今はむしろ、ほっとしています。アルティリアお嬢様があの方の呪縛から解放されるのですから。強いて言えば、あなたと別れることが寂しくはありますが……」
ブレットンさんは、ゆっくりと天を仰いだ。
何もなかったとは、やはり思えない。彼の心を大きく揺さぶる何かが、あったのかもしれない。
とはいえ、私がそういった個人的なことに踏み込めるかというと、微妙な所だ。結局の所、私は他人でしかない。必要以上に踏み込むは、余計なお世話であるだろう。
「私も寂しく思っています」
「……そうですか。そう思っていただけるのは、嬉しい限りです」
「どうかお元気でいてください。体に気を付けて」
「アルティリアお嬢様も、どうかお元気で」
ブレットンさんの表情からは、親愛のようなものが感じられた。
そんな風に私を思ってくれる人がいたという事実に、思わず涙を浮かべてしまう。
だが、涙は我慢することにした。この場所から私は巣立つのだ。そのためにもできる限り前を見ていなければならない。
だから私は、ゆっくりと歩みを進めた。それをブレットンさんは静かに見守ってくれていた。
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