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1.最後の一時

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 ベッドの上で窓の外を見つめているルドーン伯爵にどう声をかけたらいいのか、私は少し迷っていた。
 義理の父である彼との付き合いは、それなりに長い。しかし長いからこそ、なんと声をかけるべきなのかがわからないのである。
 その理由は至極単純なもので、これが最後かもしれないからだ。ルドーン伯爵は、既に限界なのである。

「……お義父様、お加減はいかかですか?」
「……フェレーナ、来てくれたのか」

 結局私は、いつも通りに声をかけることしかできなかった。
 するとルドーン伯爵の方も、いつも通りに受け答えしてくれる。
 その言葉を聞いて私は、特別な言葉など不要だと理解した。きっとルドーン伯爵だって、それを望んでいるのだろう。今の彼の顔は、とても穏やかだ。

「調子が良いと言えば、嘘になるかもしれない。とはいえ、気分は悪いという訳でもない。むしろ晴れやかとさえいえる」
「晴れやか、ですか?」
「君のお陰だ。本当に感謝している。君がいてくれたからこそ、このルドーン伯爵家というものは存続できている。領民達が平和に暮らせているのも、君があってこそのことだ」
「それはいくらなんでも褒め過ぎですよ」

 私は、ルドーン伯爵の言葉にゆっくりと首を横に振った。
 褒めてもらえることは、嬉しく思う。だが、ルドーン伯爵は大袈裟だ。私はただ、このルドーン伯爵家の一員として役目を果たしているだけなのだから。

「褒め過ぎなどということはない。君という存在に対して、私はいくら感謝の言葉を述べても足りないくらいだと思っている。同時に謝罪もしなければならない。私のせいで、君の大切な人生というものを、ここに縛り付けることになってしまった」
「……お義父様に謝罪してもらいたいことなどはありません。もちろん、彼に対しては色々と思う所はありますが、それは別の問題です」
「息子の不手際は、育て上げた私の責任でもある」
「お義父様のせいではありませんよ。大体、彼はもういい大人です。自らの行動の責任は、自らで取るべきものです」

 ルドーン伯爵は、遠い目をしていた。
 それは自分の息子――つまりは私の夫ラヴァイル様に思いを馳せているのだろう。
 今彼は、この屋敷にはいない。いやそれ所か、彼は私と結婚してから間もなくして、この屋敷から出て行って、それっきり帰って来ていないのである。

「一体、あのろくでなしはどこで何をしているのやら……」
「そうですね……」

 ルドーン伯爵の言葉に頷きながら、私はラヴァイル様との結婚について振り返っていた。
 思えば、彼とも長い付き合いである。一体いつから、ルドーン伯爵家は狂ってしまったのだろうか。ことの発端がいつからだったのか、それはよくわからない。
 とはいえ、一つ明確なことはその責任がラヴァイル様にあることである。彼は伯爵令息としての責務から逃げたのだ。
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