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18.和やかな時間
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「こうして君と過ごせる時間を、幸福であると思っている」
私とアルフェルグ様は、二人きりで寝室にいた。
彼と寝床をともにするようになってからは、しばらく経つ。
その時間は、幸福な時間であった。その認識は、アルフェルグ様も同じだったようだ。
「ええ、そうですね」
「不思議なものだ。俺は今まで、家族というものを忌避していたというのに、今は君に気持ちが傾き過ぎているような気がする」
「それは……抑圧していたからこそ、そうなのではありませんか。心のそこでは、アルフェルグ様も家族を求めていたのでしょう」
アルフェルグ様の言葉は、日に日に大胆になっている。
思っていた以上に、彼は情熱的だ。その情熱は恐らく、長年積もりに積もった家族愛というものが、溢れ出しているということだろう。
それを一身に受け止めるというのは喜ばしいことではあるが、同時に困ることでもあった。愛情が深すぎて、蕩けてしまいそうになるのだ。
「考えてみれば、そうなのかもしれないな。俺はやっと、家族になりたいと思える人に巡り会えたということか。気付くのは随分と遅かった訳だが」
「そう思えてもらえていたというのは、嬉しい事実ですね。別に私は、何かをしたという訳でもないような気はしますけれど」
「君は優しく、温かい人だ。素敵な女性であると思っている。それは最初に会ったときから、変わらない気持ちだ。正直、俺にはもったいない婚約者だと思っていた」
「アルフェルグ様だって、優しくて温かい人だと思いますよ。温かさが表面に出てきたのは最近ですが、あなたはただの冷たい人ではなかった」
アルフェルグ様は、とても苦しい境遇にあった。
それによって、その温かさを抑えつけざるを得なかったのだろう。
それは仕方ないことだと、私は思っていた。でも、今の方がずっといいのだから、踏み込もうとしなかった私の判断は、誤りだったのだろう。
「君の友人には、感謝しなければならないな。きっかけを作ってくれた」
「それを言うなら、サラティナや使用人達にも感謝しましょう。ずっと応援してくれていたみたいですから」
「そうだな。俺達以上に、俺達のことをわかっていてくれた。良き者達に囲まれたものだ」
「ええ、本当に……」
そこでアルフェルグ様は、私の頬に手を当ててきた。
そのまま私達は、ゆっくりと口づけを交わす。ゆっくりとした時間が、流れていく。
「改めて言っておこう。俺の妻は、自慢の妻だと。しかし、困ったな。自慢過ぎて、宝箱にでも入れておきたくなる」
「それでは困ってしまいます。私はあくまで、アルフェルグ様を支えたいのですから」
私達とアルフェルグ様は、そんな下らない会話をしながら笑い合っていた。
こうやって、これからも二人で同じ時間を過ごしていくのだろう。そんな未来を想像しながら、私は幸福に包まれていくのだった。
私とアルフェルグ様は、二人きりで寝室にいた。
彼と寝床をともにするようになってからは、しばらく経つ。
その時間は、幸福な時間であった。その認識は、アルフェルグ様も同じだったようだ。
「ええ、そうですね」
「不思議なものだ。俺は今まで、家族というものを忌避していたというのに、今は君に気持ちが傾き過ぎているような気がする」
「それは……抑圧していたからこそ、そうなのではありませんか。心のそこでは、アルフェルグ様も家族を求めていたのでしょう」
アルフェルグ様の言葉は、日に日に大胆になっている。
思っていた以上に、彼は情熱的だ。その情熱は恐らく、長年積もりに積もった家族愛というものが、溢れ出しているということだろう。
それを一身に受け止めるというのは喜ばしいことではあるが、同時に困ることでもあった。愛情が深すぎて、蕩けてしまいそうになるのだ。
「考えてみれば、そうなのかもしれないな。俺はやっと、家族になりたいと思える人に巡り会えたということか。気付くのは随分と遅かった訳だが」
「そう思えてもらえていたというのは、嬉しい事実ですね。別に私は、何かをしたという訳でもないような気はしますけれど」
「君は優しく、温かい人だ。素敵な女性であると思っている。それは最初に会ったときから、変わらない気持ちだ。正直、俺にはもったいない婚約者だと思っていた」
「アルフェルグ様だって、優しくて温かい人だと思いますよ。温かさが表面に出てきたのは最近ですが、あなたはただの冷たい人ではなかった」
アルフェルグ様は、とても苦しい境遇にあった。
それによって、その温かさを抑えつけざるを得なかったのだろう。
それは仕方ないことだと、私は思っていた。でも、今の方がずっといいのだから、踏み込もうとしなかった私の判断は、誤りだったのだろう。
「君の友人には、感謝しなければならないな。きっかけを作ってくれた」
「それを言うなら、サラティナや使用人達にも感謝しましょう。ずっと応援してくれていたみたいですから」
「そうだな。俺達以上に、俺達のことをわかっていてくれた。良き者達に囲まれたものだ」
「ええ、本当に……」
そこでアルフェルグ様は、私の頬に手を当ててきた。
そのまま私達は、ゆっくりと口づけを交わす。ゆっくりとした時間が、流れていく。
「改めて言っておこう。俺の妻は、自慢の妻だと。しかし、困ったな。自慢過ぎて、宝箱にでも入れておきたくなる」
「それでは困ってしまいます。私はあくまで、アルフェルグ様を支えたいのですから」
私達とアルフェルグ様は、そんな下らない会話をしながら笑い合っていた。
こうやって、これからも二人で同じ時間を過ごしていくのだろう。そんな未来を想像しながら、私は幸福に包まれていくのだった。
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