おしどり夫婦を演じていたら、いつの間にか本当に溺愛されていました。

木山楽斗

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15.確かな安心

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「なるほど、つまり君は友人と話して、俺に歩み寄ろうとしていたという訳か……」
「ええ、そういうことになりますね……」

 私は、改めてアルフェルグ様に何があったのかを伝えていた。
 話を聞き終えた彼は、頬を赤らめて、私から目をそらしている。
 内容が内容だったので、正直私も今はまともに彼を見られない。気まずい空気が、この寝室に流れているのだ。

「……正直な所、俺は今とても安心している」
「え?」

 先に口を開いたのは、アルフェルグ様の方だった。
 彼の言葉に、私は少し驚いている。安心、今回の件で彼の口からそのような言葉が発せられるなんて、正直意外だ。

「俺は君と割り切った関係でいることを望んでいる。故に、君がどこの誰とどうなろうと、関係がないと思っていた。しかし、今回の件で思ったのは……」
「……」
「君が浮気しているという事実が、嫌だということだ」
「アルフェルグ様……」

 アルフェルグ様は、私の顔を真っ直ぐに見ていなかった。
 それは恐らく、見られないということなのだろう。いつも凛々しい彼にしては、とても珍しいことだ。

「そのようなことを思うなんて、自分でも意外だった。だが、それが俺の素直な気持ちだ。我ながら勝手ではあると思うが……」
「勝手だなんて、思いませんよ。アルフェルグ様がそう思ってくれているのは、正直嬉しいですから」
「嬉しい、か……」

 私の言葉に、アルフェルグ様は目を丸めていた。
 彼の気持ちは、私にとって意外なものだった。そして私の気持ちは、彼にとって意外なものだったのだろう。
 しかしお互いに、気持ちが向かっている方向は同じである。だからきっと、これはいいことであるだろう。

「そう思ってもらえていることは、俺にとっても嬉しいことだな……」
「そうですか?」
「ああ……」

 そこでアルフェルグ様は、ベッドに寝転がった。
 私は、そんな彼と少し距離を開けて横になる。今はこの距離感が必要だろう。その距離を詰めるためには、もう少し時間が必要だ。

「安心したら、なんだか少し気が抜けた。だが、今日はなんだかよく眠れそうだ」
「そうですね。私も、そんな気がします」
「……いや、君が隣にいたら、眠れないのかもしれないが」
「……どうなのでしょうね」
「まあ、とりあえず、おやすみと言っておこうか」
「はい。おやすみなさい」

 私とアルフェルグ様は、そうやって挨拶を交わした。
 緊張もあったが、眠気はすぐにやってきた。よくわからないが、安心する気持ちの方が強かったということだろう。
 それからしばらくして、私達は眠りにつくのだった。
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