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12.夫を訪ねて

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「……珍しいな。君が俺を訪ねて来るなんて」
「え、ええ……」

 屋敷に戻ってきた私は、アルフェルグ様の元を訪ねていた。
 それは彼と、とても重要な話をしたかったからだ。エルドスから色々と言われた結果、そうするべきだと判断した。

「アルフェルグ様と話したいことがあるのです。その……このランドール侯爵家の後継ぎのことです」
「……後継ぎ?」
「今までそう言った話をしたことはありませんでしたが、必要なことだと思うのです。その問題から目をそらし続けていたら、危険です」

 家の後継ぎというものは、とても重要なものだ。それをアルフェルグ様は、誰よりも理解しているだろう。
 境遇が境遇なので、彼にそういったことを話すのは気が引ける。ただ、これはどちらかがいつか踏み込まなければならないことだ。後継ぎを作らないなんて選択肢が、ある訳はないのだし。

「……確かに言われてみれば、そうだったな。正直失念していた」
「失念、ですか?」
「無意識の内に、目をそらしていたのかもしれないな」

 そこでアルフェルグ様は、苦笑いを浮かべていた。
 やはりその出自もあって、後継ぎの問題を話すのは嫌なのだろうか。なんというか、かなり心苦しかった。
 ただここで引き下がってしまったら、今までと状況が変わらない。一度ここで、腹を割って話し合うべきだ。

「……一つ言えることがあるとすれば、俺は自分のようなものは作りたくはない」
「え?」
「これでも苦労してきた自覚がある。妾の子などという立場は、厄介なものだ」

 アルフェルグ様の言葉には、実感がこもっていた。
 彼は本当に、浮気などはしないだろう。その結果として苦しめられた彼が、そのような真似を行うはずがない。

「……とりあえず、寝床をともにしませんか?」
「……何?」

 そこで私は、アルフェルグ様に一つの提案をした。
 そのような提案をするというのは、どうにも恥ずかしい。ただこれも必要なことだ。恥を忍んで、彼との対話を進めよう。

「今の私達には、心の距離感があります。その距離感というものは、どうにも埋めがたいものです。だから、ここは無理にでも距離を詰めるべきだと思うのです。まずは物理的な距離感を縮めることにしましょう」
「……なるほど、一理ないという訳ではないが」
「そういうことなら、それでお願いします。思い立ったら吉日ということで、今日から」
「ああ……」

 アルフェルグ様の反応は、あまり良くなかった。
 はしたない提案をした自覚はあるが、それでも引かれると心にくるものがある。
 とはいえ、これはもう仕方ない。とにかく私は、今日の夜に向けて心構えを作るとしよう。
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