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7.届いてきた手紙

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「ああ、そういえば、奥様にお手紙が届いていましたよ」
「手紙?」
「ええ、珍しく夕方に届いたんですけどね」

 アルフェルグ様との関係に関する話が一段落して、サラティナは私に一通の手紙を渡してきた。
 夕方に手紙が届くなんて、珍しいことである。それだけ重要な手紙ということだろうか。

「あら? この手紙は……」
「どうかされましたか?」
「ああいいえ、知り合いからの手紙だったから」

 私は手紙の差出人の欄を見て、すぐに事情を理解した。
 そこに書かれていたのは、私の友人の名前だ。その友人は、今各地を旅している。恐らく、屋敷の近くに来たため、直接手紙を届けたのだろう。
 私は、少し笑みを浮かべながら手紙の封を開ける。すると思っていた通り、最寄りの町にいるという旨が記されていた。

「サラティナ、申し訳ないけれど、伝言を頼んでもいいかしら」
「伝言ですか?」
「ええ、アルフェルグ様に明日出掛けたいと伝えてもらいたいの」
「は、はい。それは構いませんが……」

 友人は、町のとある宿にいるらしい。一週間程滞在するつもりのようで、いつ訪ねてもいいようだ。
 そういうことなら、早速明日訪ねさせてもらおう。実際に会うのは随分と久し振りであるし、とても楽しみだ。

「えっと、どなたかと会われるのですか?」
「ええ、この手紙の差出人とね」
「ご友人ですか?」
「ええ、友人よ」

 私の言葉に、サラティナは少し驚いている様子だった。
 よく考えてみれば、私が友人と会うなんて、今までなかったことである。もしかして、友達がいないとか思われていただろうか。

「言っておくけれど、私にも友人くらいいるのよ」
「え? ああ、ええ、それはもちろんわかっていますよ。奥様はお優しい人ですからね、むしろ交友関係は広いんじゃないかとさえ思っていたくらいです」
「その割には微妙な顔をしていたような気がするのだけれどね」
「それは、その……別のことを考えていて」

 私の言葉に対して、サラティナは曖昧な言葉しか返さなかった。
 ということは、やはり友達が少ないと思っていたということだろう。それは少し悲しい。いや実際の所、友人が多いという訳でもないのだが。

「そもそも、奥様の個人的な用というのが、珍しいなぁって、思ってしまって」
「……言われてみれば、それはそうね」
「とにかく私は、旦那様に伝言をしてきますね」
「え、ええ……」

 サラティナは、少し慌てた様子で部屋から出て行った。
 もしかしたら、サラティナは本当に言った通りのことで、驚いていたのかもしれない。個人的な用なんて、本当に久し振りである。まあ、明日は久し振りに羽を伸ばすとしよう。
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