3 / 18
3.疲れている夫
しおりを挟む
舞踏会からの帰り道、私の夫は馬車の中で天を仰いでいた。
彼はひどく疲れた様子である。私もそれなりに疲労しているが、彼の疲れは私よりも遥かに大きそうだ。
「……大丈夫ですか?」
「む……」
「かなり疲れている様子ですが」
「……まあ、疲れていないと言ったら嘘になるか」
私とアルフェルグ様は、普段それ程会話をする訳ではない。
屋敷の中ではほとんど顔を合わせないし、食事も別々なくらいだ。
時々する会話といったら、打ち合わせくらいだろうか。口裏を合わせなければならないことも多々あるため、その会話は必須だ。
そのため、このようなに話しかけるのは珍しいことではある。
ただ、目の前でひどく疲れた様子の夫には声の一つもかけたくなるのが、人情というものだ。
割り切った関係でも、それくらいはいいだろう。そう思って、私は色々と聞いてみることにした。
「ああいう場は苦手ですか?」
「……苦手だな。俺はまだ、ああいう場に慣れていない」
幸いにも、アルフェルグ様は会話に応じてくれた。
彼の言い分は、理解することができる。妾の子である彼は、社交界の経験が乏しくて当然だ。
というか、それを理解できなかった自分が恥ずかしいくらいである。
「そうですよね……でも、よくできていると私は思いますよ。アルフェルグ様は、社交界でも評判の紳士ですから」
「……それは君のおかげだろう。君の助けがなければ、俺の化けの皮なんてとうに剥がれているだろうさ」
「そんなことはないと思いますが……」
実際の所、アルフェルグ様の立ち振る舞いというものは、そこらの普通の貴族達よりも、優れたものだった。
彼の立ち振る舞いは気品に溢れているし、華やかだ。見る者を虜にする不思議な魅力がある。それはもしかしたら、天性のものなのかもしれない。
「しかし、仮によくできているとしても、俺はああいう場を好ましくは思えない。君と結婚してからもう二年にもなるというのに、未だに慣れないものだな……」
「……一つ勘違いしているようですが、別に私もああいった場が好きという訳ではありませんよ」
「何?」
「人の顔色を窺わざるを得ない場所ですからね。好きになれるはずがありません。まあ、私は幼少期の頃から経験していますから、アルフェルグ様よりは耐性があるのでしょうけれど」
私の言葉に対して、アルフェルグ様は目を丸めていた。
そんな風な表情をする彼を見るのは、思えば初めてのことかもしれない。
そう思ったら、自然と笑みを浮かべてしまった。なんというか、私達にしては珍しく和やかな一時だった。
彼はひどく疲れた様子である。私もそれなりに疲労しているが、彼の疲れは私よりも遥かに大きそうだ。
「……大丈夫ですか?」
「む……」
「かなり疲れている様子ですが」
「……まあ、疲れていないと言ったら嘘になるか」
私とアルフェルグ様は、普段それ程会話をする訳ではない。
屋敷の中ではほとんど顔を合わせないし、食事も別々なくらいだ。
時々する会話といったら、打ち合わせくらいだろうか。口裏を合わせなければならないことも多々あるため、その会話は必須だ。
そのため、このようなに話しかけるのは珍しいことではある。
ただ、目の前でひどく疲れた様子の夫には声の一つもかけたくなるのが、人情というものだ。
割り切った関係でも、それくらいはいいだろう。そう思って、私は色々と聞いてみることにした。
「ああいう場は苦手ですか?」
「……苦手だな。俺はまだ、ああいう場に慣れていない」
幸いにも、アルフェルグ様は会話に応じてくれた。
彼の言い分は、理解することができる。妾の子である彼は、社交界の経験が乏しくて当然だ。
というか、それを理解できなかった自分が恥ずかしいくらいである。
「そうですよね……でも、よくできていると私は思いますよ。アルフェルグ様は、社交界でも評判の紳士ですから」
「……それは君のおかげだろう。君の助けがなければ、俺の化けの皮なんてとうに剥がれているだろうさ」
「そんなことはないと思いますが……」
実際の所、アルフェルグ様の立ち振る舞いというものは、そこらの普通の貴族達よりも、優れたものだった。
彼の立ち振る舞いは気品に溢れているし、華やかだ。見る者を虜にする不思議な魅力がある。それはもしかしたら、天性のものなのかもしれない。
「しかし、仮によくできているとしても、俺はああいう場を好ましくは思えない。君と結婚してからもう二年にもなるというのに、未だに慣れないものだな……」
「……一つ勘違いしているようですが、別に私もああいった場が好きという訳ではありませんよ」
「何?」
「人の顔色を窺わざるを得ない場所ですからね。好きになれるはずがありません。まあ、私は幼少期の頃から経験していますから、アルフェルグ様よりは耐性があるのでしょうけれど」
私の言葉に対して、アルフェルグ様は目を丸めていた。
そんな風な表情をする彼を見るのは、思えば初めてのことかもしれない。
そう思ったら、自然と笑みを浮かべてしまった。なんというか、私達にしては珍しく和やかな一時だった。
42
お気に入りに追加
526
あなたにおすすめの小説
仲良く政略結婚いたしましょう!
スズキアカネ
恋愛
養女として子爵令嬢になったレイアに宛がわれた婚約者は生粋の貴族子息様だった。
彼が婿入りする形で、成り立つこの政略結婚。
きっと親の命令で婚約させられたのね、私もかわいそうだけど、この方もかわいそう!
うまく行くように色々と提案してみたけど、彼に冷たく突き放される。
どうしてなの!? 貴族の不倫は文化だし、私は愛人歓迎派なのにオリバー様はそれらを全て突っぱねる。
私たちの政略結婚は一体どうなるの!?
◇◆◇
「冷たい彼に溺愛されたい5題」台詞でお題形式短編・全5話。
お題配布サイト「確かに恋だった」様よりお借りしています。
DO NOT REPOST.
【完結】契約結婚の妻は、まったく言うことを聞かない
あごにくまるたろう
恋愛
完結してます。全6話。
女が苦手な騎士は、言いなりになりそうな令嬢と契約結婚したはずが、なんにも言うことを聞いてもらえない話。
始まりはよくある婚約破棄のように
メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
近すぎて見えない
綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。
ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。
わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。
プロポーズされたと思ったら、翌日には結婚式をすることになりました。
ほったげな
恋愛
パーティーで出会ったレイフ様と親しくなった私。ある日、レイフ様にプロポーズされ、その翌日には結婚式を行うことに。幸せな結婚生活を送っているものの、レイフ様の姉に嫌がらせをされて?!
学園祭で侯爵令息にいきなり婚約破棄されました!
ルイス
恋愛
貴族学園に通っていたエスメラルダは、許嫁であったヨシュアに婚約破棄を言われてしまった。
理由としては真実の愛に目覚めたからというもの……エスメラルダは反論できない状態だったが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる