妾の子である公爵令嬢は、何故か公爵家の人々から溺愛されています。

木山楽斗

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第46話 彼の過去

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 私は、お兄様から話を聞いていた。
 彼は、自身の立場に違和感を覚えていたらしい。その違和感は、お兄様をずっと悩ませていたものなのだろう。

「血を引いていない俺に、父上は普通の息子として接しくれた。その感謝は、今でも忘れていない。だが、そういう風に接される度に、俺は自身の存在がわからなくなっていた。中途半端で曖昧な自身が、嫌になっていたのだ……」
「中途半端で曖昧……」
「どこまで行っても、俺は他の兄弟とは違う。そのような悪しき考えが浮かび上がり、どうしても距離のようなものを覚えてしまったのだ」
「そうなのですね……」

 お兄様の中にあったのは、疎外感だったようだ。
 それは、確かにあるだろう。お兄様は、他の兄弟と違い、お父様の血を引いていない。その事実は、とても重たいものである。
 私にとっても、それは理解できることだった。ここに来た当初は、知らない兄や姉のことを大いに恐れたものである。

「そんなことを考えながら過ごしている中、俺はお前に出会った」
「私?」
「俺と同じく、血が繋がっていない妹がこの家に来てから、俺は自身の考えを変えることができたのだ」

 そこで、お兄様は私のことを言ってきた。
 まさか、自分のことが出てくると思っていなかったため、私はとても驚いている。
 どうやら、お兄様にとって、私との出会いは重要なものだったらしい。

「お前に接する他の兄弟や、母上や父上を見て、俺は気づいたのだ。血の繋がりなど、本当は些細なことなのだと……」
「些細なこと……そうですね」

 お兄様の言葉に、私はゆっくりと笑った。
 このルーデイン家の人々は、私やお兄様が心配するようなことなど何も思っていなかっただろう。
 皆は、半分しか血が繋がっていなくても、家族だと思ってくれている。いや、血が一切繋がっていないお母さんも家族と思ってくれているのだ。本当に、血の繋がりなど些細なことなのだろう。

「俺は、お前に感謝している。同じ立場にあるお前のおかげで、俺は自分自身を取り戻すことができた」
「いえ、私には何もしていません」
「いや、お前は俺と違って、すぐに憂いを捨てていた。皆を信頼するという俺にできなかったことを簡単にできたお前でなければ、俺の考えは変わらなかっただろう」
「それも、皆が優しかったからです」
「……まあ、お前がそう思いたいなら、それでもいい」

 お兄様は、私に感謝してきた。
 だが、私は感謝の言葉などかけられるべきではない。
 本当にすごいのは、私ではなく、ここに暮らしているルーデイン家の人々なのだ。彼女達が私達を受け入れてくれなければ、今のような楽しい日々は過ごせていなかった。
 本当に、私は恵まれている。この身に余る幸せを、私はまたも改めて実感するのだった。
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