妾の子である公爵令嬢は、何故か公爵家の人々から溺愛されています。

木山楽斗

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第45話 認識のずれ

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 私とお兄様は、お互いの認識のずれに少し驚いていた。
 どうやら、お兄様は今までとても厳しい人間として振る舞ってきたようだ。
 それは、全てが嘘ではない。確かに、彼には厳しい面もある。
 だが、日頃あれ程過保護に接してきているのに、そんなことを言うのは無理があるのではないだろうか。

「……お前は、俺をずっと優しい人間だと思っていたのか?」
「はい……その、はっきりと言いますと、家族が大好きな人なのだと思っていました……」
「そうか……」

 お兄様は、ゆっくりとその体を椅子に預けた。
 その目は、天井の方を向いている。恐らく、その心を整理しているのだろう。

「……流石は、俺の妹だ。そのように見抜かれているとは思っていなかったぞ」
「あ、はい……」

 お兄様は、感心したようにそう呟いてきた。
 だが、あまり嬉しくない。このような誰でもわかることを褒められても、素直に喜ぶことができないのだ。
 アルードお兄様であっても、自分を客観視することはとても難しいようである。百人に聞いたら百人が優しいと答えることを、本人が理解していなかったのだ。その辺りは、他の家族と同じく少しずれているらしい。

「確かに、俺は家族のことを思っている。この場所が心地いいと、そう思っているのだ」
「ええ……」
「だが、俺は同時に空虚なものも抱えていた。俺は一体、何者なのかとな……」
「え?」

 そこで、お兄様は少し雰囲気が変わった。
 とても珍しいことだが、お兄様は少し悲しそうな顔をしている。そのような顔など、ほとんど見たことがない。

「お前は、俺との婚約の話をしたかったのだろう? ならば、俺の話を少し聞いてもらおうか」
「は、はい……」
「……少し、長くなるかもしれないな。あちらのソファに座れ」
「わかりました……」

 お兄様は、私が婚約に関する話をすることを理解していた。
 きっと、今からお兄様は大切なことを伝えてくれるのだろう。
 私も、心して聞かなければならない。その上で、私も大切なことを伝えなければならないだろ。

「俺という存在は、曖昧なものだった。知っての通り、俺はルーデイン家の血を引いていない。そんな俺は、自分自身の存在に疑問を抱いていたのだ」
「疑問ですか?」
「ああ、血を引いていないのに、長男として過ごす。その日々に、俺は違和感のようなものを覚えていたのだ」

 ソファに移ってから、お兄様はそのように話し始めた。
 ルーデイン家の血を引いていない。その事実は、お兄様にかなり影響を与えていたようである。
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