妾の子である公爵令嬢は、何故か公爵家の人々から溺愛されています。

木山楽斗

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第38話 慣れないこと

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 私の部屋に、イルマリお姉様がやって来た。
 彼女の言葉で、私はとても大切なことに気づいた。
 内面でどう思っていても、私はこの婚約を喜ばなければならないのだ。それが、貴族として必要なことなのである。

「……イルマリお姉様、まさかそれを伝えるために?」
「……まあ、そういうことになるわ」

 イルマリお姉様が、ここにやって来た真の理由に私は気づいた。
 恐らく、お姉様は、このことを伝えるために、一人でやって来たのだ。

「あまり、慣れないことはしたくないけど、これでも私はルーデイン家の長女。あなたやウィルテリナ、エルヴィルやオルリエ。妹や弟ときちんと導いていかなければならないもの」
「イルマリお姉様……」
「だからこそ、先人として言わせてもらうわ。祝いの言葉を受けたら、しっかりと笑うの。作り笑いでもなんでもいいわ。とにかく、暗い素振りを見せては駄目。それが、貴族の立ち振る舞いというものよ」
「はい……」

 イルマリお姉様が、このようなことを言うことは非常に珍しいことである。
 いつもなら、私が暗い顔をしていたら、とても心配するだけのはずだ。
 しかし、今日のお姉様は違った。一人の姉として、私を導こうとしてくれているのだ。

「もう一度言わせてもらうわ。アルードお兄様との婚約、おめでとう、ラルネア」
「はい、お姉様……」

 イルマリお姉様の言葉に、私はしっかりと笑顔で返した。
 すると、お姉様も笑顔を見せてくれた。これが、正解ということだろう。

「よくできたわね……ふう、なんだか、安心したわ」
「イルマリお姉様? 大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫、問題ないわ」

 そこで、イルマリお姉様の体から力が抜けた。
 先程までと比べて、とても柔らかい顔をしている。どうやら、かなり無理をしていたようだ。
 今まで厳しい言葉などかけたことがないイルマリお姉様にとって、今回のことはかなり体力を消費するものだったのだろう。

「こういうことを言うのは、案外疲れるものね。お兄様が、いつもどれだけ苦労しているか、とても身に染みるわ」
「イルマリお姉様……」
「まあ、でも、今回のこれで、私もあなたも成長できたということよ。それだけの収穫があったのだから、この疲労は悪いものではないわね」
「……そうですね。ありがとうございました、イルマリお姉様」

 イルマリお姉様の言葉に、私は笑顔で返した。
 彼女の言葉で、私は成長できた。大切なことを思い出すことができたのだ。
 本当に、イルマリお姉様には感謝の気持ちでいっぱいである。勇気を出して、私を叱ってくれたその言葉を、私は絶対に忘れない。
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