妾の子である公爵令嬢は、何故か公爵家の人々から溺愛されています。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
29 / 48

第29話 王子との再会

しおりを挟む
 私は、魔法学校の入学式に来ていた。
 当然のことではあるが、入学する学生と保護者は別々の場所で入学式に参加する。そのため、お兄様達とは離れている。

「……」

 一人というのは、それなりに緊張するものだった。
 周りの視線が、私に集中しているのも、その緊張の要因だ。
 この待機場所として設けられている教室は、顔見知りの貴族達が話している。その話している内容は、私のことなのだ。
 私をとても甘やかす公爵家の人々を見たことで、そのようになってしまったのである。皆、私が何者なのか、公爵家の人々が何を話しているのか、とても気になっているようだ。

「おや……」
「え?」

 そんな私の前に現れたのは、見知った人物だった。
 この魔法学校に入学する中で、唯一知っている人。第三王子のクリムド様である。

「お久し振りですね……ルーデインン家の屋敷で会って以来ですから、一ヶ月ぶりでしょうか?」
「お、お久し振りです……そうですね、一ヶ月ぶりだと思います」

 クリムド様は、私に話しかけてきた。お兄様達と仲が良いクリムド様が、私に話しかけてくるのは当然のことである。
 それにより、教室の視線は私達にさらに集中してくる。公爵家の隠し子と第三王子が話しているという光景は、興味を引くものだろう。
 正直、もうその視線は気になっていない。どの道、注目されているので、あまり変わらないのだ。

「なんというか……噂になっているのは知っています。ルーデイン家の人々は、妾の子を大変可愛がっていると、ここに来るまでに何度も聞いていますから」
「そうなのです……なんだか、大変なことになってしまって……」
「まあ、仕方ないことですね。正直、端から見ていると、あなたに対する愛はとてもすごいですから。多分、妾の子でなくても、話題なっていると思います」

 クリムド様の言葉に、私はとても納得できた。
 確かに、例え私が妾の子でなかったとしても、私の家族の愛は噂になるレベルだろう。
 それなのに、妾の子という前提条件までついているのだから、その話題にもちきりになるに決まっている。私だって、他人だったら、噂にしているはずだ。
 だから、これは仕方ないことなのだろう。甘んじて、受け入れるしかないのである。

「それに、これで皆さんがあなたの評価を改めてくれるかもしれませんよ? 妾の子だけど、関係ない。そのような認識が広まるかもしれません」
「そうだったら、いいのですけど……」

 クリムド様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
 確かに、そういう噂が広まってくれるなら、とてもありがたいことである。
 公爵家の人々が差別していない。その事実は、私に対して差別をしようという気を失わせるものであるだろう。
 そうなってくれると嬉しい。淡い希望かもしれないが、抱いておくだけ抱いておこう。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!

石河 翠
恋愛
ある日突然、前世の記憶を思い出した公爵令嬢ミリア。自分はラストでざまぁされる悪役令嬢ではないかと推測する彼女。なぜなら彼女には、黒豚令嬢というとんでもないあだ名がつけられていたからだ。 実際、婚約者の王太子は周囲の令嬢たちと仲睦まじい。 どうせ断罪されるなら、美しく散りたい。そのためにはダイエットと断捨離が必要だ! 息巻いた彼女は仲良しの侍女と結託して自分磨きにいそしむが婚約者の塩対応は変わらない。 王太子の誕生日を祝う夜会で、彼女は婚約破棄を求めるが……。 思い切りが良すぎて明後日の方向に突っ走るヒロインと、そんな彼女の暴走に振り回される苦労性のヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:29284163)をお借りしています。

貧乏伯爵家の妾腹の子として生まれましたが、何故か王子殿下の妻に選ばれました。

木山楽斗
恋愛
アルフェンド伯爵家の妾の子として生まれたエノフィアは、軟禁に近い状態で生活を送っていた。 伯爵家の人々は決して彼女を伯爵家の一員として認めず、彼女を閉じ込めていたのである。 そんな彼女は、ある日伯爵家から追放されることになった。アルフェンド伯爵家の財政は火の車であり、妾の子である彼女は切り捨てられることになったのだ。 しかし同時に、彼女を訪ねてくる人が人がいた。それは、王国の第三王子であるゼルーグである。 ゼルーグは、エノフィアを妻に迎えるつもりだった。 妾の子であり、伯爵家からも疎まれていた自分が何故、そんな疑問を覚えながらもエノフィアはゼルーグの話を聞くのだった。

処理中です...