上 下
26 / 26

26.それぞれの結末

しおりを挟む
「それで、あれから二人がどうなったのかわかったのか?」
「ああ、はい。一応、聞いてはいます。どうやら捕まったみたいで……」
「捕まった?」
「どうやら盗みを働いていたらしく……」

 私は、サルマンデ侯爵家に挨拶に来ていた。
 それ自体はなんとか無事に終わり、今はノルード様と二人きりで話している。
 そこで話題に出たのは、イルルグ様とウルーナ嬢のことだ。あれから二人がどうなったのか、ノルード様は気にしていたらしい。

 私もそこそこ気になっていたため、彼らに関しては少々調べていた。
 その情報は、すぐに見つかった。二人はあの後、憲兵に拘束されていたのだ。どうやら彼らは、リヴァーテ伯爵家の屋敷に来るまでの間に盗みを働いていたらしい。

「二人には貴族としての誇りなど欠片もなかったということか……」
「ええ、まあ、そういうことになりますね……」

 イルルグ様とウルーナ嬢は、落ちる所まで落ちていたといえる。
 ノルード様には言っていないが、二人はどうやら高級な宿でしばらくの間過ごしていたらしい。
 追い出された時に、それだけのお金があったならもっと色々なことができただろう。彼らは色々と、勝手過ぎる。その報いを、今はしっかりと受けていることだろう。

「でも、あの時のノルード様は、格好良かったですよ?」
「む……」
「良い婚約だとは思っていましたが、あの時ノルード様が二人に食ってかかってくれて、思ったんです。この人が婚約者で、本当に良かったって」

 そこで私は、ノルード様にあの時の自分の気持ちを伝えておくことにした。
 あの身勝手な二人を追い返せたのは、まず間違いなくノルード様のお陰だ。彼という婚約者と巡り会えたことは、本当に幸運なことだろう。今はそう思っている。

「……それなら良かった。しかし、そういう意味なら俺はあなたのことを尊敬している。あなたは困難を乗り越えてきたのだと、あの時わかったからな」
「いいえ、別に特別なことなどはしていませんよ。私はただ、流れに身を任せていただけで……ああ、もちろん、心強い味方のお陰でもありますが」
「そういった気丈な所に、俺は好感が持てるのだろうな。あなたとなら、幸せな家庭が築けそうだ……なんて、気が早いだろうか」
「い、いえ、そのようなことは……」

 私達は、お互いに笑い合っていた。
 これから、どのような未来が訪れるのかはわからない。
 ただ、わかるのはそれが幸せな未来であるということだ。ノルード様と一緒なら、きっとそうなるだろう。根拠はないが、私はそう思っている。



END




◇◇◇



エピローグ(モブside)


「出せー! ここから出せ!」
「私を誰だと思っているのですか! このウルーナを、こんな所に閉じ込めておくなんて、なんという愚かなことをっ!」

 牢屋の中から、二人の声が響き渡ってきた。
 それに見張りの兵士は、辟易とする。その声は何度も聞こえてきており、いくら注意しても収まらないからだ。

「どうしてこんなことに……」
「……元はと言えば、お兄様のせいではありませんか」
「何?」
「お兄様が婚約破棄なんてしなければ、こんなことにはならなかったのです! 何が妹のためですか! 本当に私のことを思っているなら、あんなことをしなければ良かったのに!」
「な、なんだと……」

 牢屋の中で、二人は言い争いを始めていた。
 それに兵士は、ゆっくりと息を吐く。二人に呆れていたのである。

「この! 僕がどれだけお前に良くしてやったと思っている!」
「恩を着せたかったのですか! みっともない兄ですこと」
「お前はっ――」
「……てめぇら! うるさいんだよ!」

 兵士が呆れていると、別の牢屋から怒号が飛んだ。
 それは、他の囚人の声である。二人の言い争いによって安寧の時を邪魔されて、かなり怒りを覚えているようだ。

 そこで兵士は気付いた。二人は貴族だったと聞いている。そういった権力者に対して、囚人達の中には激しい恨みを抱いている者もいる。
 そういった者達から、二人はこれから厳しい接し方をされるかもしれない。そう思ったのだ。

 ただ彼は、そのことをすぐに気にしないことにした。自分が助ける義理があるという訳でも、ないと思ったからだ。
 それから兵士は、いつも通り仕事を続けることにしたのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

みずな117
2024.09.07 みずな117

23嫌な気配

俺の矢生の勘→野生、かなと。

木山楽斗
2024.09.07 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。

解除
大将
2024.09.04 大将

いつも楽しく読ませてもらってます。
誤字報告、諸王時期→しょうじき
言葉を紡ぐことになった→紡ぐことは無かっただと思ったので_〆(。。)
続き楽しみにしてます。
2人にもっと盛大なざまぁを_〆(。。)

木山楽斗
2024.09.04 木山楽斗

感想とご指摘ありがとうございます。
ご指摘のカ所については、修正させていただきます。
二人がどうなるか、最後までお楽しみいただけると嬉しいです。

解除
はるはる
2024.08.31 はるはる

感想失礼します。
ストーリーが面白く、こんなべったり兄妹が周りにいたら嫌だな〜と思いながら読んでいました笑 周りがしっかりしている分、兄妹との対比が面白いです!
これからの展開も楽しみにしています^_^

木山楽斗
2024.08.31 木山楽斗

感想ありがとうございます。
この作品で楽しんでいただけているなら嬉しいです。
仰る通り、こんな兄妹は嫌だと思います。積極的に付き合い人達ではありません。
そんな二人がどんな末路を辿るのか、今後の展開にご期待ください。

解除

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。 「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」 遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。 こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。 その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
特殊な力を持つローウェル伯爵家の長女であるマルヴィナ。 王子の妃候補にも選ばれるなど、子供の頃から皆の期待を背負って生きて来た。 両親が無邪気な妹ばかりを可愛がっていても、頑張ればいつか自分も同じように笑いかけてもらえる。 十八歳の誕生日を迎えて“特別な力”が覚醒すればきっと───……そう信じていた。 しかし、十八歳の誕生日。 覚醒するはずだったマルヴィナの特別な力は発現しなかった。 周りの態度が冷たくなっていく中でマルヴィナの唯一の心の支えは、 力が発現したら自分と婚約するはずだった王子、クリフォード。 彼に支えられながら、なんとか力の覚醒を信じていたマルヴィナだったけれど、 妹のサヴァナが十八歳の誕生日を迎えた日、全てが一変してしまう。 無能は不要と追放されたマルヴィナは、新たな生活を始めることに。 必死に新たな自分の居場所を見つけていこうとするマルヴィナ。 一方で、そんな彼女を無能と切り捨てた者たちは────……

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。