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22.まともな挨拶

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 私達リヴァーテ伯爵家は、ノルード様を婿として迎え入れることに決めた。
 色々と考えたが、やはりこれは良い婚約であると思う。ノルード様は、信頼できる人だ。私のそういった主張を、お父様も受け入れてくれたのだ。

 前回の婚約は、お父様が決めたものである。そのことでもしかしたら、少々自信を失っているということもあるのかもしれない。
 ともあれ、この婚約は私が決めたようなものだといえる。故にしっかりと、その責任を背負っていかなければならない。

「ふう……」
「ノルード様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。しかし、疲れるものだな。挨拶というのは……いや、こういったことはあなたにも言うべきではないか」
「いえ、遠慮なさらないでください」

 婚約の話を了承すると、ノルード様がリヴァーテ伯爵家を訪ねて来た。
 お父様やお母様、それから妹のルナーシャなどに挨拶しに来たのだ。
 その挨拶を、ノルード様はそつなくこなした――と思っていたのだが、二人きりになった途端、彼は天を仰ぎ始めた。気が抜けてしまったということだろう。

「本当にお疲れ様です、ノルード様」
「ありがとう。俺の挨拶はどうだっただろうか。何か無礼があったらと、不安なのだが……」
「とても安心できる挨拶でしたよ?」
「安心か……」
「ああ、別に他意などはありません」

 ノルード様の不安に対して、私はつい前の婚約者のことを思い出していた。
 イルルグ様の挨拶は、結果的に滅茶苦茶なものであったといえる。正直な所、妹同伴ではない時点で私はかなり安心していたくらいだ。
 しかそれは、ノルード様に失礼であるだろう。あんなのと比べられても、不快でしかないはずだ。

「あなたも色々と苦労した訳だな……」
「苦労……という程ではありません。結果として、婚約破棄されたというだけですからね。その補填はしてもらいましたし、こうしてノルード様と婚約することができています」
「ラナーシャ嬢は強いな。俺はあなたのことを尊敬するよ」
「それは……ありがとうございます」

 ノルード様の言葉に、私は少し面食らっていた。
 別に私は、特別なことをした訳ではない。ただ単に、そうなっているというだけだ。流れに身を任せているというだけなのである。
 それは別に、褒められるようなことではないだろう。当然のことをしているだけだ。

「……しかし、ノルード様のことを心配してばかりもいられませんね。私の方も挨拶をしなければならないのですから」
「だけど、ラナーシャ嬢の場合は俺の家族のことはよく知っているだろう?」
「それとこれとは話が別ですよ」

 私はノルード様に対して、苦笑いを浮かべる。
 知らない仲という訳でもないが、だからこそ気は引き締まるというものだ。油断して無礼なことをしなように充分注意しなければならない。
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