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14.淡々とした言葉

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「あなたは子供の頃から騎士に憧れていましたね。私もそのことについては、尊重してきたつもりです。しかし、段々とわかってきました。あなたは騎士に憧れを抱き過ぎていると……憧れというものは、時にすれ違いを生み出します。あなたの場合は、きっとそうなるでしょう」

 サルマンデ侯爵夫人は、淡々と言葉を発している。
 それに対して、ノルード様は固まっていた。それらの言葉は、彼にとっては聞きたいものではないということだろう。
 とはいえ、受け止めなければならないことでもある。彼はこの言葉を受けて、改めて騎士になるかどうかを決めなければならないからだ。

「あなたが憧れたのは、人々を守る騎士というものでしょう。それは例えばの話ですが、リヴァーテ伯爵家に婿入りしても叶う話です。私達貴族の役目が、どのようなものか、あなたも理解していない訳ではないでしょう」

 貴族というものは、領地の民を守る者である。私のお父様などは、いつもそのようなことを口にしていた。
 そうやって人々を守るからこそ、豊かな暮らしをさせてもらっている。そのように考えるべきだと、教わってきたのだ。それはサルマンデ侯爵家においても、変わらないことだったらしい。

「ですから、一つの未来として考えてもらいたいのです。あなたが婿入りなどをすることを……その相手として、ラナーシャ嬢は適していると思っています。パトリィと親しい関係にあるラナーシャ嬢は、私達にとっても信頼できる方ですからね」
「あ、その、ありがとうございます」

 急に視線を向けられた私は、とりあえず感謝の言葉を述べた。
 サルマンデ侯爵家の人々は、良好な関係が築けているという自負があった。それは、間違ってはいなかったらしい。私にとっては、嬉しい事実だ。

「……母上の意見はよくわかりました」

 そこでノルード様は、口を開いた。
 そんな彼からは、先程までのように動揺が伝わってこない。大分落ち着いているようだ。現実を受け止められたということだろうか。

「しかしながら、母上の思惑は別にありますね?」
「……え?」
「結局母上は、私を騎士にしたくはないのでしょう? 危険な職業であると認識しているが故に……それに色々と理由を肉付けした。違いますか?」
「ふふっ……」

 ノルード様の言葉に、私は驚いた。彼が笑みを浮かべながら、言葉を発していたからだ。
 それから私は、サルマンデ侯爵夫人も笑っているということに気付いた。それは図星だということだろうか。
 そこで私は、二人のことがわからなくなっていた。今の会話は、もしかしたら私が思っていたこととは異なる意思が含まれていたのだろうか。
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