11 / 26
11.突然の提案
しおりを挟む
私はサルマンデ侯爵家の屋敷において、ノルード様と少しだけ話をしていた。
鍛錬終わりの彼を、いつまでも引き止めておく訳にはいかない。そう思って私は、話を切り上げようとしていた。
「あ、ノルードお兄様」
「うん? パトリィ……それに、母上か」
私は、声が聞こえてきた方向に視線を向けた。
するとそこには、パトリィと二人の母親であるサルマンデ侯爵夫人がいた。
パトリィが戻って来ることは理解できる。所用で抜けていただけなので、戻って来るのは必然だ。
しかし、サルマンデ侯爵夫人が来ているのがわからない。何故、彼女までここに来るのだろうか。私は少し焦ってしまう。
「ラナーシャ、お兄様と話していたんだね?」
「え? あ、ええ、そうなの。鍛錬が終わった所で丁度出くわして……」
「なるほど、それは良いタイミングといえば良いタイミングだったかも……」
私の言葉に対して、パトリィは何故か笑みを浮かべていた。
その笑顔に、私は首を傾げる。それはどういった意味の笑みなのだろうか。
「ラナーシャ嬢、お久し振りですね」
「あ、はい。お久し振りです、サルマンデ侯爵夫人。お邪魔しています」
「ご丁寧にどうも。でも、そんなにかしこまる必要はありませんよ。あなたはパトリィの友人なのですから」
サルマンデ侯爵夫人も、朗らかな笑顔を浮かべていた。
親子だけあって、二人の表情はとてもよく似ている。ただやはり、その笑みの理由というものがわからない。
ただ少なくとも、友好的ではあるようだ。そのことに私は安心する。粗相がないとわかっただけでも、私にとっては収穫だ。
「ただ、今日は実はあなたと話したいことがあるのです」
「話したいこと、ですか?」
「ええ、そこにいるノルードのことで……」
「ノルード様?」
サルマンデ侯爵夫人の言葉に、私とノルード様は顔を見合わせた。
その反応からして、彼の方も状況をよく理解していないようだ。それがまたわからない。ノルード様のことなのに、何故本人が知らないのだろうか。
「ラナーシャ嬢は、先日婚約破棄されたのですよね? それ自体は残念なことでしたが……」
「ああ、まあ、そうですね」
「そこでラナーシャ嬢に一つ提案したいことがあるのです。ここにいるノルードと、婚約していただけませんか?」
「ノルード様と婚約……え?」
私は、少し遅れてサルマンデ侯爵夫人の言葉に反応することになった。
しかしそれは、仕方ないことである。彼女から言われたことが、あまりにも予想外のことだったからだ。
私は、再度ノルード様の方を見た。すると彼も目を丸めている。どうやらこれは、本人にも伝えずに提案された縁談であるらしい。
鍛錬終わりの彼を、いつまでも引き止めておく訳にはいかない。そう思って私は、話を切り上げようとしていた。
「あ、ノルードお兄様」
「うん? パトリィ……それに、母上か」
私は、声が聞こえてきた方向に視線を向けた。
するとそこには、パトリィと二人の母親であるサルマンデ侯爵夫人がいた。
パトリィが戻って来ることは理解できる。所用で抜けていただけなので、戻って来るのは必然だ。
しかし、サルマンデ侯爵夫人が来ているのがわからない。何故、彼女までここに来るのだろうか。私は少し焦ってしまう。
「ラナーシャ、お兄様と話していたんだね?」
「え? あ、ええ、そうなの。鍛錬が終わった所で丁度出くわして……」
「なるほど、それは良いタイミングといえば良いタイミングだったかも……」
私の言葉に対して、パトリィは何故か笑みを浮かべていた。
その笑顔に、私は首を傾げる。それはどういった意味の笑みなのだろうか。
「ラナーシャ嬢、お久し振りですね」
「あ、はい。お久し振りです、サルマンデ侯爵夫人。お邪魔しています」
「ご丁寧にどうも。でも、そんなにかしこまる必要はありませんよ。あなたはパトリィの友人なのですから」
サルマンデ侯爵夫人も、朗らかな笑顔を浮かべていた。
親子だけあって、二人の表情はとてもよく似ている。ただやはり、その笑みの理由というものがわからない。
ただ少なくとも、友好的ではあるようだ。そのことに私は安心する。粗相がないとわかっただけでも、私にとっては収穫だ。
「ただ、今日は実はあなたと話したいことがあるのです」
「話したいこと、ですか?」
「ええ、そこにいるノルードのことで……」
「ノルード様?」
サルマンデ侯爵夫人の言葉に、私とノルード様は顔を見合わせた。
その反応からして、彼の方も状況をよく理解していないようだ。それがまたわからない。ノルード様のことなのに、何故本人が知らないのだろうか。
「ラナーシャ嬢は、先日婚約破棄されたのですよね? それ自体は残念なことでしたが……」
「ああ、まあ、そうですね」
「そこでラナーシャ嬢に一つ提案したいことがあるのです。ここにいるノルードと、婚約していただけませんか?」
「ノルード様と婚約……え?」
私は、少し遅れてサルマンデ侯爵夫人の言葉に反応することになった。
しかしそれは、仕方ないことである。彼女から言われたことが、あまりにも予想外のことだったからだ。
私は、再度ノルード様の方を見た。すると彼も目を丸めている。どうやらこれは、本人にも伝えずに提案された縁談であるらしい。
531
お気に入りに追加
945
あなたにおすすめの小説
【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~
Rohdea
恋愛
特殊な力を持つローウェル伯爵家の長女であるマルヴィナ。
王子の妃候補にも選ばれるなど、子供の頃から皆の期待を背負って生きて来た。
両親が無邪気な妹ばかりを可愛がっていても、頑張ればいつか自分も同じように笑いかけてもらえる。
十八歳の誕生日を迎えて“特別な力”が覚醒すればきっと───……そう信じていた。
しかし、十八歳の誕生日。
覚醒するはずだったマルヴィナの特別な力は発現しなかった。
周りの態度が冷たくなっていく中でマルヴィナの唯一の心の支えは、
力が発現したら自分と婚約するはずだった王子、クリフォード。
彼に支えられながら、なんとか力の覚醒を信じていたマルヴィナだったけれど、
妹のサヴァナが十八歳の誕生日を迎えた日、全てが一変してしまう。
無能は不要と追放されたマルヴィナは、新たな生活を始めることに。
必死に新たな自分の居場所を見つけていこうとするマルヴィナ。
一方で、そんな彼女を無能と切り捨てた者たちは────……
愛することをやめた令嬢は、他国へ行くことにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私リーゼは、婚約者ダーロス王子が浮気していることを知る。
そのことを追求しただけで、ダーロスは私に婚約破棄を言い渡してきた。
家族からは魅力のない私が悪いと言われてしまい、私はダーロスを愛することをやめた。
私は家を捨てて他国へ行くことにして――今まで私が国に貢献していたことを、元婚約者は知ることとなる。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
完結 穀潰しと言われたので家を出ます
音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。
「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」
遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。
こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。
その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……
【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。
葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。
それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。
本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。
※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。
番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。
(2021/02/07 02:00)
小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。
恋愛及び全体1位ありがとうございます!
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?
新野乃花(大舟)
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するノークはその自信のままにアルシアとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってノークの存在価値を大きく落とし、アリシアから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。
義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!
新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…!
※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります!
※カクヨムにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる