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11.突然の提案

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 私はサルマンデ侯爵家の屋敷において、ノルード様と少しだけ話をしていた。
 鍛錬終わりの彼を、いつまでも引き止めておく訳にはいかない。そう思って私は、話を切り上げようとしていた。

「あ、ノルードお兄様」
「うん? パトリィ……それに、母上か」

 私は、声が聞こえてきた方向に視線を向けた。
 するとそこには、パトリィと二人の母親であるサルマンデ侯爵夫人がいた。

 パトリィが戻って来ることは理解できる。所用で抜けていただけなので、戻って来るのは必然だ。
 しかし、サルマンデ侯爵夫人が来ているのがわからない。何故、彼女までここに来るのだろうか。私は少し焦ってしまう。

「ラナーシャ、お兄様と話していたんだね?」
「え? あ、ええ、そうなの。鍛錬が終わった所で丁度出くわして……」
「なるほど、それは良いタイミングといえば良いタイミングだったかも……」

 私の言葉に対して、パトリィは何故か笑みを浮かべていた。
 その笑顔に、私は首を傾げる。それはどういった意味の笑みなのだろうか。

「ラナーシャ嬢、お久し振りですね」
「あ、はい。お久し振りです、サルマンデ侯爵夫人。お邪魔しています」
「ご丁寧にどうも。でも、そんなにかしこまる必要はありませんよ。あなたはパトリィの友人なのですから」

 サルマンデ侯爵夫人も、朗らかな笑顔を浮かべていた。
 親子だけあって、二人の表情はとてもよく似ている。ただやはり、その笑みの理由というものがわからない。
 ただ少なくとも、友好的ではあるようだ。そのことに私は安心する。粗相がないとわかっただけでも、私にとっては収穫だ。

「ただ、今日は実はあなたと話したいことがあるのです」
「話したいこと、ですか?」
「ええ、そこにいるノルードのことで……」
「ノルード様?」

 サルマンデ侯爵夫人の言葉に、私とノルード様は顔を見合わせた。
 その反応からして、彼の方も状況をよく理解していないようだ。それがまたわからない。ノルード様のことなのに、何故本人が知らないのだろうか。

「ラナーシャ嬢は、先日婚約破棄されたのですよね? それ自体は残念なことでしたが……」
「ああ、まあ、そうですね」
「そこでラナーシャ嬢に一つ提案したいことがあるのです。ここにいるノルードと、婚約していただけませんか?」
「ノルード様と婚約……え?」

 私は、少し遅れてサルマンデ侯爵夫人の言葉に反応することになった。
 しかしそれは、仕方ないことである。彼女から言われたことが、あまりにも予想外のことだったからだ。
 私は、再度ノルード様の方を見た。すると彼も目を丸めている。どうやらこれは、本人にも伝えずに提案された縁談であるらしい。
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