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7.ばれた時点で(モブ視点)
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アルガース・エゼルバルトは、窮地に立たされていた。
ラルティア・レゼイル侯爵令嬢に婚約を破棄された彼は、エゼルバルト侯爵家に戻ってきて改めて自分が置かれている状況を理解していた。
婚約破棄したのは相手側であるが、その発端となったのは彼自身の浮気だ。そのことによって、エゼルバルト侯爵家は一方的に婚約破棄された被害者にはなれない。
むしろ、婚約者がいながら浮気をしていた、その浮気を悟られていた間抜けた一族として、家の評価を著しく下げられることになるのだ。
「愚か者め。浮気するならばれないように努めろ。愛などというまやかしに溺れて本気になるな。それを私はいつも、お前に伝えてきたつもりだったがな」
「父上、僕は……」
「メルセティ・ハーデン伯爵令嬢は、遊び相手としては悪くなかったかもしれない。だが、お前はあれに入れ込み過ぎた。少なくとも、噂が流れた時点で弁えるべきだったな」
エゼルバルト侯爵に詰められて、アルガースは意気消沈していた。
今となっては、彼も自分の愚かさを理解している。ラルティア嬢に婚約破棄されたことによって、全てを失うことは明らかだったからだ。
「もっとも、エゼルバルト侯爵家を継ぐ者が不祥事を起こした訳ではないということは、私にとっては不幸中の幸いであるといえるか。オルフェルガはお前と違って優秀な男だ。あれは女に惑わされることもない」
アルガースは、父親のことをよく知っていた。
彼には、肉親の情というものもない訳ではない。しかしながら同時に、家のためには非常になれる人だ。
そんな彼が、今の自分をどのように扱うか。それを理解しているアルガースにとって、この会話は絶望的なものだった。
「荷物をまとめて、この家から出て行け。エゼルバルト侯爵家にとって、お前は既に邪魔者だ」
「父上、待ってください。僕は必ず、この家の役に……」
「今のお前が一番役に立てる方法が、この家から出て行くことだ。お前を排除したという事実は、実に効果的に働くだろう。厳正な貴族からは反省していると受け取られ、情に厚い貴族からは同情を誘える」
エゼルバルト侯爵は、既に先のことを見据えていた。
彼の目に自分が映っていない。それをアルガースは悟った。
「まあ、せめてもの情けだ。いくらか渡してやろう。ただし、それで我々とお前の関係は終わりだ」
「ち、父上……」
「話は終わりだ。早く荷物をまとめろ。明朝にはここから出て行ってもらう」
侯爵家の権力を誇っていたアルガースにとって、そこから排斥されるということは、とても苦しいことだった。
しかし、エゼルバルト侯爵が取り合ってくれないことは明らかだ。そう思ったアルガースは、不本意ながらも兄の元へと向かうことにした。僅かながら残っている希望に、彼は縋りつこうとしているのだ。
ラルティア・レゼイル侯爵令嬢に婚約を破棄された彼は、エゼルバルト侯爵家に戻ってきて改めて自分が置かれている状況を理解していた。
婚約破棄したのは相手側であるが、その発端となったのは彼自身の浮気だ。そのことによって、エゼルバルト侯爵家は一方的に婚約破棄された被害者にはなれない。
むしろ、婚約者がいながら浮気をしていた、その浮気を悟られていた間抜けた一族として、家の評価を著しく下げられることになるのだ。
「愚か者め。浮気するならばれないように努めろ。愛などというまやかしに溺れて本気になるな。それを私はいつも、お前に伝えてきたつもりだったがな」
「父上、僕は……」
「メルセティ・ハーデン伯爵令嬢は、遊び相手としては悪くなかったかもしれない。だが、お前はあれに入れ込み過ぎた。少なくとも、噂が流れた時点で弁えるべきだったな」
エゼルバルト侯爵に詰められて、アルガースは意気消沈していた。
今となっては、彼も自分の愚かさを理解している。ラルティア嬢に婚約破棄されたことによって、全てを失うことは明らかだったからだ。
「もっとも、エゼルバルト侯爵家を継ぐ者が不祥事を起こした訳ではないということは、私にとっては不幸中の幸いであるといえるか。オルフェルガはお前と違って優秀な男だ。あれは女に惑わされることもない」
アルガースは、父親のことをよく知っていた。
彼には、肉親の情というものもない訳ではない。しかしながら同時に、家のためには非常になれる人だ。
そんな彼が、今の自分をどのように扱うか。それを理解しているアルガースにとって、この会話は絶望的なものだった。
「荷物をまとめて、この家から出て行け。エゼルバルト侯爵家にとって、お前は既に邪魔者だ」
「父上、待ってください。僕は必ず、この家の役に……」
「今のお前が一番役に立てる方法が、この家から出て行くことだ。お前を排除したという事実は、実に効果的に働くだろう。厳正な貴族からは反省していると受け取られ、情に厚い貴族からは同情を誘える」
エゼルバルト侯爵は、既に先のことを見据えていた。
彼の目に自分が映っていない。それをアルガースは悟った。
「まあ、せめてもの情けだ。いくらか渡してやろう。ただし、それで我々とお前の関係は終わりだ」
「ち、父上……」
「話は終わりだ。早く荷物をまとめろ。明朝にはここから出て行ってもらう」
侯爵家の権力を誇っていたアルガースにとって、そこから排斥されるということは、とても苦しいことだった。
しかし、エゼルバルト侯爵が取り合ってくれないことは明らかだ。そう思ったアルガースは、不本意ながらも兄の元へと向かうことにした。僅かながら残っている希望に、彼は縋りつこうとしているのだ。
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