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第5話 真面目な弟

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 私は、弟のイルルドとともに廊下を歩いていた。
 歩きながら、私はイルルドに何があったかを説明した。衝撃的なことだったため、彼はかなり驚いているようだ。

「まさか、婚約破棄とは……」
「驚いているわね……まあ、当然よね」
「ええ……しかし、姉上が嫌だったのなら、その決断もいいと思います。一生のことですから、合わない人と無理して婚約しなくてもいいでしょう」

 イルルドは、私の選択を好意的に受け止めてくれた。
 彼は、優しい人間である。だから、私のことを特に批判したりはしないのだろう。
 だが、私の選択は、イルルドにとって厳しいものであるはずだ。もしかしたら、お父様以上に彼は困るかもしれない。

「次期当主になるかもしれないあなたにとって、王族との婚約は重要なものだったわよね……ごめんなさいね、私のせいで、迷惑をかけて……」
「そのようなことを気にしないでください。私も弟達も、姉上を咎めようなどという気持ちは絶対に持ちません。姉上が不幸になるくらいなら、自分達が不利益を被ることを選びます」
「イルルド……」

 イルルドの言葉は、とても嬉しいものだった。
 この弟は、私のことを大切に思ってくれている。それが、どうしようもなく、嬉しいのだ。

「ありがとう、イルルド!」
「うっ、姉上!?」

 私は、感極まってイルルドに抱き着いていた。
 急に抱き着かれて、彼は困惑しているようだ。

「きゅ、急に、どうしたのですか?」
「あ、その……嬉しくて」
「そうですか……」

 イルルドに抱き着くのは、思えば久し振りのことである。お互いに忙しかったからか、私に心の余裕がなかったからか、あまり彼と話せていなかったからだ。
 こうして久し振りに抱き着いてみると、彼が成長していることを実感する。昔よりも大きくなった彼の体は、とても温かい。

「姉上、姉と弟はいえ、年頃の男女がこういう風に抱き着くのはよくありません」
「え?」
「申し訳ありませんが、離れてもらえますか?」
「え、ええ……」

 イルルドは、私に離れるように言ってきた。
 流石に、この年で姉に抱き着かれるのは恥ずかしいのだろうか。
 いや、そういうことではないかもしれない。彼は、とても真面目な性格だ。だから、言葉に出したままの意味なのかもしれない。

「そんなに悲しそうな顔をしないでください。姉上のことが嫌いになったという訳ではありませんよ。ただ、そういうことは控えるべきだと思うのです。姉弟であっても、そこは線引きするべきだと私は思っています」
「本当に、あなたは真面目というか、固いというか……」
「すみません、性分ですので」
「わかっているわ。少し残念だけど、仕方ないわよね。それが、あなたのいい所でもあるもの」

 私は、イルルドの言葉を受け入れた。
 残念だが、これも仕方ない。真面目な彼の意思を尊重するとしよう。
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