婚約破棄された私は、妹の代わりに血塗れ伯爵に嫁ぐことになりました。

２６

　私は、レーベイン様と馬車に乗っていた。
　彼は特に何も言うことはなく、ゆっくりと窓の外を眺めている。それは、まるで私が言葉を発するのを待っているかのような様子だ。

「ウェルリフ伯爵、一つ聞いてもよろしいでしょうか？」
「……ええ、なんでしょうか？」

　私が話しかけると、ウェルリフ伯爵は少し口の端を歪めた。
　話しかけられたから、笑顔になった。それは別におかしいことではない。
　しかし、私はなんとなくその笑顔を怖く思った。この冷ややかな笑みの裏で、彼は何を考えているのだろうか。

「あなたは、今回の出来事について、どう思っているのですか？」
「どう思っているか？」
「ええ、レーベイン様の行動に、あなたが何を思っているのか、私は知りたいのです」
「なるほど……」

　私は、今回の出来事に関する彼の見解を直接聞くことにした。はぐらかされてもいいので、とりあえず聞いてみることにしたのである。
　そんな私の質問に、ウェルリフ伯爵は少し考えるような仕草をした。
　その様子は、とてもわざとらしいように見える。それは、私の偏見が入っているからなのだろうか。

「もう少し煽ってもよかったかもしれませんね……」
「え？」
「でも、こんな短期間で二人も殺したら、流石にまずいではありませんか……」
「なっ……！」

　ウェリルフ伯爵の言葉に、私は震えた。
　その発言は、冷酷な殺人者のものだったからだ。
　まさか、そんなことを言われると思っていなかった。こんなにも単純に、彼の本性を知れるなんて、考えてもみなかったことだ。

「なんて、言うとでも思っていたのですか？」
「え？」
「少々、趣味が悪かったかもしれませんね。申し訳ありませんでした……」

　その直後、ウェルリフ伯爵が謝罪してきた。
　その謝罪によって、先程の言葉が悪趣味すぎる冗談であったと私は理解する。

「今回の出来事は、本当に安心しているのです。彼が安易な行動を取らなくてよかったと、心からそう思っていますよ」
「えっと……」
「それだけです。それだけなんです……」

　少し悲しそうな顔をしながら、ウェルリフ伯爵は呟いた。
　その様子は、今までの殺人が偶然であり、今回はそういうことにならなかったと心から思っているように見える。
　だが、彼は演技が上手い。これが演技である可能性はあるだろう。
　しかし、それは先程の殺人鬼が演技だったという可能性があることも示している。どちらが演技でも、おかしくはないのだ。

　結局、彼の本性は何もわからないということである。
　私は、この人の真実を知ることができるのだろうか。