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 話も終わったので、私とウェルリフ伯爵は帰ることにした。
 別に、ここに長居したいとは思っていないし、あちらも長居して欲しくはないと思っているはずなので、そういうことにしたのだ。

「レーベイン様!」
「なっ……!」

 という訳で、件のメイドとレーベイン様とともに、私達は廊下を歩いていた。
 すると、一人の女性が早歩きでこちらに向かってきた。見た目から考えて、恐らくは貴族の令嬢だろう。
 ただ、彼女はこのオルガーム伯爵家の令嬢ではない。レーベイン様の家族構成は知っているが、彼には姉も妹もいないのだ。

「テリミア、一体どうしてここに?」
「レーベイン様に、会いに来たのです」
「会いに来ただと……」

 レーベイン様は、テリミアと呼んだ女性に対してとても焦っていた。
 彼女がここに来たことがまずいことであるかのように、表情を歪めたのだ。
 だが、別に問題があるとは思えない。彼が客人の前であることを気にするとは思えないので、一体何を焦っているのだろうか。

「おや、もしかして、こちらの女性は婚約者ですか?」
「い、いや……」
「まだ婚約者ではありません。でも、何れはそうなるはずです」

 そこで、ウェルリフ伯爵が言葉を発した。
 その質問に、レーベイン様はひどく焦っている。
 一方で、テリミアはとても明るい表情だ。彼女には、特に後ろめたいことはないということなのだろうか。

「……それは、少し変ですね。私の友人の令嬢が、オルガーム家の令息との婚約が決まったと言っていたはずなのですが」
「え? ……レーベイン様? それは、どういうことですか?」
「そ、それは……」

 ウェルリフ伯爵の言葉に、テリミアは目を細めた。
 話すが段々をわかってきた。つまり、レーベイン様と彼女は浮気の関係にあるということなのだろう。
 もっとも、テリミアにその自覚はなかった。彼女は、自分が彼の婚約者になれると思っていたということなのだろう。

「彼女の勘違いだったのでしょうか? それとも、破断になったとか?」
「だ、黙れ! それ以上、そのことについて口にするんじゃない!」

 ウェルリフ伯爵に対して、レーベイン様は激昂した。
 その様子に、伯爵は驚いたような表情になる。少し白々しいと思えるような反応だ。

「申し訳ありません。別に、あなたを怒らせたかった訳ではないのです。ただ、私の友人がそう言っていたものですから、おかしな話だと思っただけで……」
「レーベイン様、そのように怒るということは、後ろめたいことがあるということではないのですか?」
「うるさい! お前も黙っていろ!」

 レーベイン様は、かなり興奮していた。
 その様子は、どこかで見たことがある。先日、道端で出会った男のように、彼の目は血走っているのだ。
 私の中に、一つの疑念が芽生えた。もしかしたら、ウェルリフ伯爵はわざとレーベイン様を怒らせようなことを言ったのではないかと。
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