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 事件現場に警察が来たのは、ことが終わってからすぐのことだった。男がナイフを取り出した時点で、誰かが呼びに行っていたのだろう。
 現場を見た警察は、すぐに状況がわかったようだった。ウェルリフ伯爵を見て、察したような表情をしたのだ。当然のことではあるが、警察に彼の事情は知れ渡っているようだ。

 町の大通りで、白昼堂々に起こった事件ということで、目撃証言は多数あった。
 男が急にナイフを取り出して、ウェルリフ伯爵に襲い掛かり、抵抗した拍子にナイフが男の喉に刺さった。その流れは疑いようのないものである。
 ウェルリフ伯爵から、必死だったことも証言されたらしい。彼もわざと刺した訳ではない。状況から考えても、意図的に喉を刺せるとは思えない。それが、共通の見解だった。

 はっきりと言って、状況の全ては彼の正当防衛を示している。
 だが、そこに疑念を挟まない程、警察はウェルリフ伯爵のことを信頼できていないようだった。

 それは、当然のことである。何しろ、これで彼は六度目の正当防衛なのだ。簡単に信じる方が、無理というものである。
 明確な殺意があったのではないか。その議論になるのは、恐らく一度目ではないだろう。

「まあ、その辺りで伯爵家の権力を使わざるを得なくなりましたね」
「伯爵家の権力ですか……」

 もちろん、明確な殺意があったかどうかなどということは、明らかに不当なものである。
 ウェルリフ伯爵とあの男は、初対面だったらしい。あちら側は一方的に知っていて、彼はよく知らない。そういう関係性だったのだ。
 あちらに関しては、殺害する動機が明確に存在する。だが、ウェルリフ伯爵にはない。例えば、彼が残酷な殺人鬼でもなければ。

「知り合いに働きかけてもらいました。不当な嫌疑ですから、これは仕方がないことなのです」
「ええ、わかっています」

 事件に関することが色々と終わってから、私はウェルリフ伯爵と話していた。
 一人の人間を殺めたというのに、彼は特に動揺している様子がない。時間が経っているからそうなのだろうか。はたまた、元々何も感じてなかったのだろうか。
 彼は、事件が始まる前とまるで変わっていない。それに違和感を覚えてしまうのは、私が彼をまだ理解できていないからなのだろうか。

「まさか、六度目の機会が訪れるとは思いませんでしたよ。それに関しては、少々複雑な気持ちです。ですが、僕も命が脅かされて大人しくするなんてできませんからね……」
「ええ、そうですよね……」

 彼の表情からは、罪悪感のようなものが読み取れた。
 だが、それが本当に罪悪感なのかどうか、私にはまるでわからない。
 本当に、彼は謎の多い人物である。そんな彼に、私はひどく興味を抱いている。彼を解き明かしたい。その気持ちが、日に日に強くなっていくのだ。
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