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私は、ウェルリフ伯爵とともに馬車に乗っていた。
彼の領地である町は、特に変わった所もない町だった。いや、普通よりも活気に溢れているように感じるので、そういう意味では変わっているといえるのかもしれない。
いい町だと思う。領主としての彼が優れていることは、町の様子を見れば明らかである。少なくとも、統治者としては信頼できると思っていいのだろう。
「自分で言うのもおかしいのかもしれませんが、いい町でしょう?」
「ええ……」
ただ、少しだけ気になることもあった。
馬車を見る住人達の目に、少しだけ陰りのようなものが見えることがあるのだ。
基本的には皆、明るい表情であると思う。領主としての彼を慕っていないという訳ではなさそうだ。
しかし、何か後ろめたいことがあるようなそんな印象を受ける。やはり、彼の手が血に塗れているということが気になっている人もいるということなのだろうか。
「僕にいい印象を持ってもらいたいので、少し恥ずかしいことでも言わせてもらいます。ッ僕は、領民のことを大切に思っています。彼らに僕は支えられている。そのような意識を持っているので、彼らのことはできる限り尊重するつもりです」
「そうですか……」
「もちろん、貴族として譲歩できない部分もありますが、できる限りのことはしているつもりです」
「それは……いいことですね」
ウェルリフ伯爵は、私に対して笑顔を向けてきた。
本人も言っている通り、これはアピールなのだろう。自分が優れているということを、私に伝えてきているのだ。
少し、胡散臭いように思えてしまう。それは、私が彼に色々と疑念を持っているからなのだろうか。
「おや……」
「あれ?」
そこで、私達は少し驚いてしまった。先程まで進んでいた馬車が、急に動きを止めたのだ。
今回は、馬車で町を案内してもらうことになっている。いくつか目的地はあるらしいのだが、ウェルリフ伯爵の反応から考えて、そこに着いたという訳でもなさそうだ。
つまり、何か問題があったということになる。もしかしたら、馬車の前に誰かが出てきたりしたのだろうか。
「少し、様子を見てみます。あなたは、ここで待っていてください」
「あ、待って下さい。私も……」
ウェルリフ伯爵は、馬車から出て行ってしまった。
待っているように言われたが、気になったので私も出て行くことにする。
おかしな話かもしれないが、何故か私はとても嫌な予感がしていた。これから、何かが起こるのではないか。そんな風に感じているのだ。
結果的に、その予感は当たっていたといえるだろう。なぜなら、馬車の前で一人の男がウェルリフ伯爵に対して罵声を飛ばしている光景が目に入ってきたからだ。
彼の領地である町は、特に変わった所もない町だった。いや、普通よりも活気に溢れているように感じるので、そういう意味では変わっているといえるのかもしれない。
いい町だと思う。領主としての彼が優れていることは、町の様子を見れば明らかである。少なくとも、統治者としては信頼できると思っていいのだろう。
「自分で言うのもおかしいのかもしれませんが、いい町でしょう?」
「ええ……」
ただ、少しだけ気になることもあった。
馬車を見る住人達の目に、少しだけ陰りのようなものが見えることがあるのだ。
基本的には皆、明るい表情であると思う。領主としての彼を慕っていないという訳ではなさそうだ。
しかし、何か後ろめたいことがあるようなそんな印象を受ける。やはり、彼の手が血に塗れているということが気になっている人もいるということなのだろうか。
「僕にいい印象を持ってもらいたいので、少し恥ずかしいことでも言わせてもらいます。ッ僕は、領民のことを大切に思っています。彼らに僕は支えられている。そのような意識を持っているので、彼らのことはできる限り尊重するつもりです」
「そうですか……」
「もちろん、貴族として譲歩できない部分もありますが、できる限りのことはしているつもりです」
「それは……いいことですね」
ウェルリフ伯爵は、私に対して笑顔を向けてきた。
本人も言っている通り、これはアピールなのだろう。自分が優れているということを、私に伝えてきているのだ。
少し、胡散臭いように思えてしまう。それは、私が彼に色々と疑念を持っているからなのだろうか。
「おや……」
「あれ?」
そこで、私達は少し驚いてしまった。先程まで進んでいた馬車が、急に動きを止めたのだ。
今回は、馬車で町を案内してもらうことになっている。いくつか目的地はあるらしいのだが、ウェルリフ伯爵の反応から考えて、そこに着いたという訳でもなさそうだ。
つまり、何か問題があったということになる。もしかしたら、馬車の前に誰かが出てきたりしたのだろうか。
「少し、様子を見てみます。あなたは、ここで待っていてください」
「あ、待って下さい。私も……」
ウェルリフ伯爵は、馬車から出て行ってしまった。
待っているように言われたが、気になったので私も出て行くことにする。
おかしな話かもしれないが、何故か私はとても嫌な予感がしていた。これから、何かが起こるのではないか。そんな風に感じているのだ。
結果的に、その予感は当たっていたといえるだろう。なぜなら、馬車の前で一人の男がウェルリフ伯爵に対して罵声を飛ばしている光景が目に入ってきたからだ。
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