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私は、アルザー・ウェルリフ伯爵と対面していた。
色々と困惑していた私を、彼は椅子に座らせた。彼もその対面に座ったのだが、その雰囲気はやはり不思議である。
あの妖艶だった彼は、どこにいったのか。それ程までに、彼の雰囲気は変わっている。まるで、慣れ親しんだ兄弟のような印象を彼から受ける。それが、とても不思議なのだ。
「僕の髪は、こんな風に珍しい色をしていますから、ああいう演技が栄えるんですよね」
「え、えっと……」
「おっと、まだ怯えていますか? すみませんね、本当に。あなたを落ち着かせるつもりだったのですが、逆効果だったようですね」
「その……」
彼は私に笑顔を向けながら、ハーブティーを入れてくれた。
いい香りがする。その香りが、私の心を少しだけ落ち着かせてくれる。
それが、彼の狙いなのだろうか。冷静になった直後、そのように考えて、私はまた少し動揺してしまう。
「あなたは、僕との婚約を望んでいると聞いていましたが、別に僕のことを怖がっていないという訳ではないのですね?」
「え、その……すみません」
「いえ、いいんですよ。僕を怖がるのは、むしろ当然のことですから」
私の謝罪に対して、彼はとても明るい笑顔を見せてきた。
その笑顔が、どこか無理をしているように見えるのは、私の気のせいなのだろうか。
「血塗れ伯爵……冷酷な殺人鬼、それが僕の評価ですね」
「は、はい……そうですね」
「どう思っていますか? あなたは僕のことをどのように考えているのでしょうか?」
ウェルリフ伯爵は、私の目をじっと見つめてきた。
その目は、とても真剣なように思える。
彼のことをどう思っているか。それは、この際はっきりと言うべきなのかもしれない。
そう思えるような目をしている。しかし、これも演技なのかもしれない。そのように思える程、彼の雰囲気の移り変わりは奇妙なものなのだ。
「はっきりと言って、私はあなたを殺人鬼なのかもしれないと思っています。噂でしかない。ずっとそう自分に言い聞かせていましたが、感情的には疑いを持ってしまっているのです」
「そうですか……」
私の言葉を聞いて、ウェルリフ伯爵は少し悲しそうな表情をした。
その露骨ともいえる反応に、私は疑いを持ってしまう。いや、露骨に見えるのが、私が疑っているからなのだろうか。
「少し、話をしましょうか……」
「話……ですか?」
「ええ、僕のことをお聞かせします。どこまで話すべきなのか、ずっと迷っていましたが、あなたがそのように正直に自分の思いを話してくれたのですから、僕も正直に伝えるべきだと決心がつきました」
ウェルリフ伯爵は、真剣な顔をしていた。
その顔を見ても、私はそれが彼の本心なのかを見極めることができなかった。何か裏がるのではないか。どうしても、そう思ってしまうのだ。
色々と困惑していた私を、彼は椅子に座らせた。彼もその対面に座ったのだが、その雰囲気はやはり不思議である。
あの妖艶だった彼は、どこにいったのか。それ程までに、彼の雰囲気は変わっている。まるで、慣れ親しんだ兄弟のような印象を彼から受ける。それが、とても不思議なのだ。
「僕の髪は、こんな風に珍しい色をしていますから、ああいう演技が栄えるんですよね」
「え、えっと……」
「おっと、まだ怯えていますか? すみませんね、本当に。あなたを落ち着かせるつもりだったのですが、逆効果だったようですね」
「その……」
彼は私に笑顔を向けながら、ハーブティーを入れてくれた。
いい香りがする。その香りが、私の心を少しだけ落ち着かせてくれる。
それが、彼の狙いなのだろうか。冷静になった直後、そのように考えて、私はまた少し動揺してしまう。
「あなたは、僕との婚約を望んでいると聞いていましたが、別に僕のことを怖がっていないという訳ではないのですね?」
「え、その……すみません」
「いえ、いいんですよ。僕を怖がるのは、むしろ当然のことですから」
私の謝罪に対して、彼はとても明るい笑顔を見せてきた。
その笑顔が、どこか無理をしているように見えるのは、私の気のせいなのだろうか。
「血塗れ伯爵……冷酷な殺人鬼、それが僕の評価ですね」
「は、はい……そうですね」
「どう思っていますか? あなたは僕のことをどのように考えているのでしょうか?」
ウェルリフ伯爵は、私の目をじっと見つめてきた。
その目は、とても真剣なように思える。
彼のことをどう思っているか。それは、この際はっきりと言うべきなのかもしれない。
そう思えるような目をしている。しかし、これも演技なのかもしれない。そのように思える程、彼の雰囲気の移り変わりは奇妙なものなのだ。
「はっきりと言って、私はあなたを殺人鬼なのかもしれないと思っています。噂でしかない。ずっとそう自分に言い聞かせていましたが、感情的には疑いを持ってしまっているのです」
「そうですか……」
私の言葉を聞いて、ウェルリフ伯爵は少し悲しそうな表情をした。
その露骨ともいえる反応に、私は疑いを持ってしまう。いや、露骨に見えるのが、私が疑っているからなのだろうか。
「少し、話をしましょうか……」
「話……ですか?」
「ええ、僕のことをお聞かせします。どこまで話すべきなのか、ずっと迷っていましたが、あなたがそのように正直に自分の思いを話してくれたのですから、僕も正直に伝えるべきだと決心がつきました」
ウェルリフ伯爵は、真剣な顔をしていた。
その顔を見ても、私はそれが彼の本心なのかを見極めることができなかった。何か裏がるのではないか。どうしても、そう思ってしまうのだ。
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