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第46話 考え方の違い
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私は、イルディンと馬車の中で話していた。
真面目な弟は、かつての自分に色々と思う所があるようだ。
ただ、別にそれで押し潰されたりはしない様子なので、あまり追及はしないことにする。
「それより、イルディンはまだ私が他の人を褒めるのが嫌なの?」
「え?」
そこで、私は話題を転換した。
こちらも、確かめておかなければならなかったことだ。
小さい頃から、この弟は私が他の人を褒めると嫌そうな態度をする。その嫉妬心に私は喜んでいる訳だが、それは正しいものだったのだろうか。
「まあ、そうだね……でも、昔とは少し考え方は変わっているよ?」
「え? そうなの?」
イルディンの回答に、私は少し驚いた。
どうやら、昔と今では、同じ反応でも考え方が変わっているようだ。
ただ、よく考えてみれば、それは当然である。先程の可愛いという話でも、昔と今では考え方が変わっていた。成長している以上、そういうことが起こるのは必然なのである。
「具体的には、どういう風に変わっているの?」
「そうだね……恥ずかしい話だけど、昔は姉さんが他の人を褒めると、姉さんが取られてしまうと思っていたと思う」
「私が取られる?」
私が掘り下げて質問すると、イルディンはとても素直に答えてくれた。
昔のイルディンは、私を取られると思って、嫌そうな態度をしていたようだ。
「姉さんが他の人を褒めると、姉さんはその人のことが自分より好きで、その人の所に行ってしまうんじゃないか。そう考えていたと思う」
「私が他の人の所に?」
「嫉妬心とか、独占欲とか、そういうものがあっただろうね。もちろん、今もそういう感情がないという訳ではないけど……」
小さな頃のイルディンは、私が思っていた通り、嫉妬心や独占欲があったらしい。
それは今もあるようだ。だが、それが一番ではないということだろう。
「今はどう思っているの?」
「今は、姉さんが他の人を褒めると……悔しいとでも、いうのかな? もっと頑張らなくちゃいけないと思うんだ」
「悔しい?」
「うん。姉さんが褒める人は、皆立派な人だよ。その人達みたいに、僕もなりたい。そういう思いになるんだ」
「なるほど……そういうことだったのね」
今のイルディンが嫌そうな顔をしていたのは、そういうことだったようだ。
自分ももっと頑張らなければならない。そういう決意をする深刻な顔が、私は嫌そうにしていると思ってしまったようだ。
なんというか、かなり弟のことを勘違いしていたらしい。嫉妬心や独占欲は、持っていてくれていたようだが、それでももっと崇高な感情を弟は持っていたようだ。
「ごめんなさい、イルディン。私、勘違いしていたようね……」
「いや、別にいいよ。姉さんの思っている通りの感情も、僕にはあった。それも間違いないことだからね」
「イルディン……ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいわ」
私の謝罪に対して、イルディンは笑ってくれた。
どこまでも優しい弟に、私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
真面目な弟は、かつての自分に色々と思う所があるようだ。
ただ、別にそれで押し潰されたりはしない様子なので、あまり追及はしないことにする。
「それより、イルディンはまだ私が他の人を褒めるのが嫌なの?」
「え?」
そこで、私は話題を転換した。
こちらも、確かめておかなければならなかったことだ。
小さい頃から、この弟は私が他の人を褒めると嫌そうな態度をする。その嫉妬心に私は喜んでいる訳だが、それは正しいものだったのだろうか。
「まあ、そうだね……でも、昔とは少し考え方は変わっているよ?」
「え? そうなの?」
イルディンの回答に、私は少し驚いた。
どうやら、昔と今では、同じ反応でも考え方が変わっているようだ。
ただ、よく考えてみれば、それは当然である。先程の可愛いという話でも、昔と今では考え方が変わっていた。成長している以上、そういうことが起こるのは必然なのである。
「具体的には、どういう風に変わっているの?」
「そうだね……恥ずかしい話だけど、昔は姉さんが他の人を褒めると、姉さんが取られてしまうと思っていたと思う」
「私が取られる?」
私が掘り下げて質問すると、イルディンはとても素直に答えてくれた。
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「姉さんが他の人を褒めると、姉さんはその人のことが自分より好きで、その人の所に行ってしまうんじゃないか。そう考えていたと思う」
「私が他の人の所に?」
「嫉妬心とか、独占欲とか、そういうものがあっただろうね。もちろん、今もそういう感情がないという訳ではないけど……」
小さな頃のイルディンは、私が思っていた通り、嫉妬心や独占欲があったらしい。
それは今もあるようだ。だが、それが一番ではないということだろう。
「今はどう思っているの?」
「今は、姉さんが他の人を褒めると……悔しいとでも、いうのかな? もっと頑張らなくちゃいけないと思うんだ」
「悔しい?」
「うん。姉さんが褒める人は、皆立派な人だよ。その人達みたいに、僕もなりたい。そういう思いになるんだ」
「なるほど……そういうことだったのね」
今のイルディンが嫌そうな顔をしていたのは、そういうことだったようだ。
自分ももっと頑張らなければならない。そういう決意をする深刻な顔が、私は嫌そうにしていると思ってしまったようだ。
なんというか、かなり弟のことを勘違いしていたらしい。嫉妬心や独占欲は、持っていてくれていたようだが、それでももっと崇高な感情を弟は持っていたようだ。
「ごめんなさい、イルディン。私、勘違いしていたようね……」
「いや、別にいいよ。姉さんの思っている通りの感情も、僕にはあった。それも間違いないことだからね」
「イルディン……ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいわ」
私の謝罪に対して、イルディンは笑ってくれた。
どこまでも優しい弟に、私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
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