上 下
37 / 70

第37話 褒めるべきこと

しおりを挟む
 私とイルディンは、業務中少しだけ休憩していた。
 私に関しては自発的に休んだが、イルディンが休んだのは私のせいである。仕事をしている弟に見惚れてしまい、その視線で集中力を切らさせてしまったのだ。

「姉さんにかっこいいと思われるのは、光栄だね」
「そうなの?」
「うん、とても嬉しいよ」

 私がかっこいいと言ったため、イルディンは照れていた。そして、嬉しそうである。
 まさか、ここまで嬉しそうにされるとは思っていなかった。もしかして、普段あまり褒めていないからだろうか。
 私は、イルディンに色々と小言を言うことが多い。それにより、弟はストレスが溜まっている可能性は充分ある。
 それなら、ここはいっぱい褒めてあげるべきなのではないだろうか。別に、私はイルディンのことを評価していない訳ではない。機会がないから、あまり褒めていないだけなのだ。
 こういうことをきちんと言っておかないと、この弟は自分が評価されていないと落ち込んでしまう。それは、私も望む所ではない。

「イルディン、あなたはとても立派よ」
「え?」
「いつもは言えていないけど、あなたは誠実だし、仕事熱心だし、とても立派な人間だわ」
「そ、そうかな……あ、ありがとう」

 私が急に褒めだしたからか、イルディンは少し引いていた。
 どうやら、少し脈略がなさ過ぎたようだ。
 確かに、いきなり褒めだしたら、嬉しさよりも気味悪さが勝つかもしれない。ここは、事情を順序立てて話した方がいいだろう。

「えっと、私はいつもイルディンに小言を言うことが多いわよね?」
「え? 小言?」
「あれ?」

 説明しようと思った私だったが、イルディンは何故か最初の段階でつまずいていた。
 なんというか、お互いの認識に齟齬があるようだである。

「姉さん、小言なんか言っていたかな?」
「え? 言っていなかったかしら? いつも、こういう所が駄目とか言っているし……」
「ああ、それは別に小言ではないよ。僕にとってもありがたいことだから、嫌だと思ったことは一回もないよ」
「あ、そうなの……」

 どうやら、イルディンは私が普段から色々と言っていることを、特に嫌とは思っていなかったようだ。
 それなら、良かった。ストレスになっていないなら、私としても安心できる。

「そもそも、姉さんはいつも優しく語りかけてくれているし、あれを小言なんて思えるはずがないよ。むしろ、僕としては嬉しいというか……」
「嬉しい?」
「あ、いや、なんでもないよ」

 どうやら、イルディンは私が色々と言うことを嬉しいと思ってくれているようだ。
 向上心が高い弟なので、きっと私から色々と学べることを幸福に思っているのかもしれない。
 そういう面も、イルディンのすごい所である。普通は、そのように考えることなどできないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

姉の持ち物はすべて妹のもの。それなのに、玉の輿!? 旦那様を渡しなさいよ!

青の雀
恋愛
第1話 妹レイナは、なんでも私のものを欲しがる。ドレスでもアクセサリーでも。 「お姉さまの幸せは、妹レイナの幸せ。」をモットーに。 婚約者を寝取られ、差し上げたにもかかわらず、次の婚約者にまでちょっかいを出した妹。王女殿下の怒りを買い…。 第2話 公爵令嬢が婚約者の王太子の誕生日会で男爵令嬢を虐めていたと冤罪をでっちあげ婚約破棄される。 公爵令嬢は、「どうぞ、ご勝手に」とさっさと破棄を受け入れる。 慌てる国王陛下と王妃殿下、その理由は…。    セクションの意味がわかりませんか?一般的だと思って使用していました。第〇条のことをいいます。お小さい方が読まれることが多いのかしら。一般教養で普通に習うことです。法律用語の使い方を知らない人が読まれているようです。正しい法律用語を覚えられるように書いていく所存です。 永く書き過ぎました。今日で終話とさせていただきます。 また、いつかどこかで。 他サイトで継続して書いています。探してみてください。HN,タイトル違うからわからないかもです。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

処理中です...