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第31話 支えたいから
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私は、布団の中でイルディンと密着していた。
この弟は、私と引っ付くことを嬉しいと思いながら、やめなければならないと思っている複雑な心境らしい。
そんな彼に対して、私はどう接すればいいのか、少しだけ悩んでいた。
弟の意思を尊重するなら、私は離れるべきなのだろう。そうすることで、イルディンは私に甘えない人間に成長することができる。
「イルディンの気持ちは理解できたわ」
「それじゃあ……」
「でも、離れようとは思わない。それが、正しい選択だとは、どうも思えないのよね」
「え?」
だが、そのような人間になることが正しいとは思えない。私は、イルディンの家族である。私にくらい甘えてくれても、別にいいのではないだろうか。
誰にも頼らないことは、確かに立派なことかもしれない。しかし、そんなことを続けているといつか潰れてしまうだろう。
だから、私はイルディンが甘えられる存在でいたい。弟の弱い部分を受け入れてあげられる姉でありたいと思うのだ。
「弱い部分をなくすことは、いいこととは限らないと思うわ。誰かに甘えられるような人間でないと、いつか潰れてしまうと、私は思っているもの」
「……そうなのかな?」
「一人で全部背負って、誰にも頼らないで生きていく。それは立派なことかもしれないけど、苦しくて辛い道になるわ。そんな道を一人で歩んで行ける程、人間というものは強くないのではないかしら」
「姉さん……」
私の言葉に、イルディンは少し難しい顔をする。
今までの考えをまとめているのかもしれない。自分の考えを私の考え、どちらがいいのか、賢い弟は必死に考えているのだろう。
「例えば、お父様だって強くて一人で生きていける人のように見えるけど、お母様に甘えてばかりよ」
「お父様……確かに、そうかもしれないね」
「そんな風に、誰かに甘えることは恥ずかしいことではないと思うわ。むしろ、そうすることで本当に強くなれるのではないかしら?」
「……うん。なんだか、そう思えるようになってきたよ」
お父様という身近な例を出したためか、イルディンは納得してくれた。
これで、この弟が私に甘えなくなるということはないだろう。
色々と言ったが、結局私にとって重要なのはそこだけだ。弟が甘えてこなくなると、私が寂しい。もちろん、イルディンのためを思ってのことではあるが、これは自分のためでもあるのだ。
「だから、これからはいっぱい私に甘えてね。本当に、いつでもいいから」
「え? あ、うん。まあ、辛い時は頼らせてもらおうかな」
「私も、辛い時はイルディンを頼るわ。それで、いいわよね?」
「もちろん、僕は大歓迎だよ」
私という人間は、いつまでも弟離れできない。
何か理由をつけて、イルディンに甘えてもらいたいし、甘えたいのである。
ただ、それはきっといつまでも続かない。私もイルディンも、どこかの貴族といつかは結婚するはずだからだ。
その人物が、イルディンにとって私以上に甘えられる人であることを私は願っている。そういう人がいないと、この弟はすぐに駄目になってしまうだろう。
そんなことを考えながら、私は残された時間の一部を楽しむのだった。
この弟は、私と引っ付くことを嬉しいと思いながら、やめなければならないと思っている複雑な心境らしい。
そんな彼に対して、私はどう接すればいいのか、少しだけ悩んでいた。
弟の意思を尊重するなら、私は離れるべきなのだろう。そうすることで、イルディンは私に甘えない人間に成長することができる。
「イルディンの気持ちは理解できたわ」
「それじゃあ……」
「でも、離れようとは思わない。それが、正しい選択だとは、どうも思えないのよね」
「え?」
だが、そのような人間になることが正しいとは思えない。私は、イルディンの家族である。私にくらい甘えてくれても、別にいいのではないだろうか。
誰にも頼らないことは、確かに立派なことかもしれない。しかし、そんなことを続けているといつか潰れてしまうだろう。
だから、私はイルディンが甘えられる存在でいたい。弟の弱い部分を受け入れてあげられる姉でありたいと思うのだ。
「弱い部分をなくすことは、いいこととは限らないと思うわ。誰かに甘えられるような人間でないと、いつか潰れてしまうと、私は思っているもの」
「……そうなのかな?」
「一人で全部背負って、誰にも頼らないで生きていく。それは立派なことかもしれないけど、苦しくて辛い道になるわ。そんな道を一人で歩んで行ける程、人間というものは強くないのではないかしら」
「姉さん……」
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今までの考えをまとめているのかもしれない。自分の考えを私の考え、どちらがいいのか、賢い弟は必死に考えているのだろう。
「例えば、お父様だって強くて一人で生きていける人のように見えるけど、お母様に甘えてばかりよ」
「お父様……確かに、そうかもしれないね」
「そんな風に、誰かに甘えることは恥ずかしいことではないと思うわ。むしろ、そうすることで本当に強くなれるのではないかしら?」
「……うん。なんだか、そう思えるようになってきたよ」
お父様という身近な例を出したためか、イルディンは納得してくれた。
これで、この弟が私に甘えなくなるということはないだろう。
色々と言ったが、結局私にとって重要なのはそこだけだ。弟が甘えてこなくなると、私が寂しい。もちろん、イルディンのためを思ってのことではあるが、これは自分のためでもあるのだ。
「だから、これからはいっぱい私に甘えてね。本当に、いつでもいいから」
「え? あ、うん。まあ、辛い時は頼らせてもらおうかな」
「私も、辛い時はイルディンを頼るわ。それで、いいわよね?」
「もちろん、僕は大歓迎だよ」
私という人間は、いつまでも弟離れできない。
何か理由をつけて、イルディンに甘えてもらいたいし、甘えたいのである。
ただ、それはきっといつまでも続かない。私もイルディンも、どこかの貴族といつかは結婚するはずだからだ。
その人物が、イルディンにとって私以上に甘えられる人であることを私は願っている。そういう人がいないと、この弟はすぐに駄目になってしまうだろう。
そんなことを考えながら、私は残された時間の一部を楽しむのだった。
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