上 下
31 / 70

第31話 支えたいから

しおりを挟む
 私は、布団の中でイルディンと密着していた。
 この弟は、私と引っ付くことを嬉しいと思いながら、やめなければならないと思っている複雑な心境らしい。
 そんな彼に対して、私はどう接すればいいのか、少しだけ悩んでいた。
 弟の意思を尊重するなら、私は離れるべきなのだろう。そうすることで、イルディンは私に甘えない人間に成長することができる。

「イルディンの気持ちは理解できたわ」
「それじゃあ……」
「でも、離れようとは思わない。それが、正しい選択だとは、どうも思えないのよね」
「え?」

 だが、そのような人間になることが正しいとは思えない。私は、イルディンの家族である。私にくらい甘えてくれても、別にいいのではないだろうか。
 誰にも頼らないことは、確かに立派なことかもしれない。しかし、そんなことを続けているといつか潰れてしまうだろう。
 だから、私はイルディンが甘えられる存在でいたい。弟の弱い部分を受け入れてあげられる姉でありたいと思うのだ。

「弱い部分をなくすことは、いいこととは限らないと思うわ。誰かに甘えられるような人間でないと、いつか潰れてしまうと、私は思っているもの」
「……そうなのかな?」
「一人で全部背負って、誰にも頼らないで生きていく。それは立派なことかもしれないけど、苦しくて辛い道になるわ。そんな道を一人で歩んで行ける程、人間というものは強くないのではないかしら」
「姉さん……」

 私の言葉に、イルディンは少し難しい顔をする。
 今までの考えをまとめているのかもしれない。自分の考えを私の考え、どちらがいいのか、賢い弟は必死に考えているのだろう。

「例えば、お父様だって強くて一人で生きていける人のように見えるけど、お母様に甘えてばかりよ」
「お父様……確かに、そうかもしれないね」
「そんな風に、誰かに甘えることは恥ずかしいことではないと思うわ。むしろ、そうすることで本当に強くなれるのではないかしら?」
「……うん。なんだか、そう思えるようになってきたよ」

 お父様という身近な例を出したためか、イルディンは納得してくれた。
 これで、この弟が私に甘えなくなるということはないだろう。
 色々と言ったが、結局私にとって重要なのはそこだけだ。弟が甘えてこなくなると、私が寂しい。もちろん、イルディンのためを思ってのことではあるが、これは自分のためでもあるのだ。

「だから、これからはいっぱい私に甘えてね。本当に、いつでもいいから」
「え? あ、うん。まあ、辛い時は頼らせてもらおうかな」
「私も、辛い時はイルディンを頼るわ。それで、いいわよね?」
「もちろん、僕は大歓迎だよ」

 私という人間は、いつまでも弟離れできない。
 何か理由をつけて、イルディンに甘えてもらいたいし、甘えたいのである。
 ただ、それはきっといつまでも続かない。私もイルディンも、どこかの貴族といつかは結婚するはずだからだ。
 その人物が、イルディンにとって私以上に甘えられる人であることを私は願っている。そういう人がいないと、この弟はすぐに駄目になってしまうだろう。
 そんなことを考えながら、私は残された時間の一部を楽しむのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

【完結】お前とは結婚しない!そう言ったあなた。私はいいのですよ。むしろ感謝いたしますわ。

まりぃべる
恋愛
「お前とは結婚しない!オレにはお前みたいな奴は相応しくないからな!」 そう私の婚約者であった、この国の第一王子が言った。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

処理中です...