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第1話 決定的な現場
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私の名前は、アルメネア・ラガンデ。セルパデン王国に暮らす侯爵令嬢である。
私は、公爵家の三男であるガルビム・エーデイン様と婚約している。親同士が決めた婚約であるが、私はそれでも納得していた。
貴族が、婚約を決められるのは当たり前のこと。それに逆らう気などない。私も、侯爵家の娘として役目を果たすだけ。そのように思って生きてきたのだ。
「ガルビム様……」
「シメール……」
だが、そんな彼との婚約を揺るがす事態を、私は目撃していた。
ガルビム様が、ある女性と抱き合っている様子をこの目に捉えてしまったのだ。
その女性は、シメールと呼ばれている。確か、伯爵令嬢にシメール・オーガティア様という女性がいたはずだ。恐らく、彼女がそのシメール様なのだろう。
「すまない、シメール。中々、君に会えなくて……」
「いえ、わかっています。ガルビム様も、忙しい身。私のために時間を割いてくれるだけでも、ありがたいと思っています」
「苦労をかけてすまない……」
前々から、ガルビム様は女癖が悪いと聞いていた。
だが、噂でしかないと自分を誤魔化し、今までそれは信じないようにしてきた。
しかし、実際に現場を見てしまったら、そんな誤魔化しは利かない。確固たる証拠を得てしまった今、私の心は一つの結論を紡ぎ出そうとしている。
その結論は、お父様やお母様に対して申し訳ないものだ。ただ、あの男と一緒になるということは、一人の人間として許容できない。
「ガルビム様……」
「なっ……」
「え?」
私は、二人の前に姿を現した。
当然のことではあるが、二人はとても焦っている。
だが、そのようなことを気にする程、私はお人好しではない。
「これは……どういうことですか?」
「ち、違うのだ……これは」
「違うなどという言葉で、誤魔化せることではありません。私は全て見ていました。もう、あなたとの関係は終わりにさせて頂けますか?」
「そ、それは……」
私は、感情を表に出さずに、淡々と事実を告げた。
その言葉に、ガルビム様は少し動揺している。私とガルビム様の婚約は、両家の合意によって決められた婚約だ。それを自分の不貞で解消されたとなると、どうなるか一応理解しているのだろう。
「ガルビム様、良いではありませんか?」
「シ、シメール?」
「あの方が婚約破棄してくれるというなら、私とガルビム様が結ばれます。何も問題ないのではありませんか?」
「い、いや、それは……」
そんな中、シメール様は嬉しそうにしていた。
私とガルビム様の婚約がなくなれば、自分が婚約者になれる。楽観的に、そのように考えているのだろう。
だが、それは甘い考えというものだ。婚約というのは、そう簡単に決められるものではない。私と婚約破棄したとしても、シメール様が婚約者になるとは限らないだろう。
そもそも、シメール様はガルビム様の愛が自分にだけ向いているものだと勘違いしている。実際、現場を見ていないためわからないが、ガルビム様は悪い噂が絶えない。そんな彼が、たった一人の人間に愛を向けているはずがないだろう。
「それでは、私はこれで失礼します。詳しい話は、また後日行いましょう」
「あ、いや、待て……」
しかし、私は特に何か言おうとは思わなかった。
最早、彼と彼女がどうなろうが興味はない。私は、ただ婚約破棄するだけ。その後のことは、二人の問題である。
私は、公爵家の三男であるガルビム・エーデイン様と婚約している。親同士が決めた婚約であるが、私はそれでも納得していた。
貴族が、婚約を決められるのは当たり前のこと。それに逆らう気などない。私も、侯爵家の娘として役目を果たすだけ。そのように思って生きてきたのだ。
「ガルビム様……」
「シメール……」
だが、そんな彼との婚約を揺るがす事態を、私は目撃していた。
ガルビム様が、ある女性と抱き合っている様子をこの目に捉えてしまったのだ。
その女性は、シメールと呼ばれている。確か、伯爵令嬢にシメール・オーガティア様という女性がいたはずだ。恐らく、彼女がそのシメール様なのだろう。
「すまない、シメール。中々、君に会えなくて……」
「いえ、わかっています。ガルビム様も、忙しい身。私のために時間を割いてくれるだけでも、ありがたいと思っています」
「苦労をかけてすまない……」
前々から、ガルビム様は女癖が悪いと聞いていた。
だが、噂でしかないと自分を誤魔化し、今までそれは信じないようにしてきた。
しかし、実際に現場を見てしまったら、そんな誤魔化しは利かない。確固たる証拠を得てしまった今、私の心は一つの結論を紡ぎ出そうとしている。
その結論は、お父様やお母様に対して申し訳ないものだ。ただ、あの男と一緒になるということは、一人の人間として許容できない。
「ガルビム様……」
「なっ……」
「え?」
私は、二人の前に姿を現した。
当然のことではあるが、二人はとても焦っている。
だが、そのようなことを気にする程、私はお人好しではない。
「これは……どういうことですか?」
「ち、違うのだ……これは」
「違うなどという言葉で、誤魔化せることではありません。私は全て見ていました。もう、あなたとの関係は終わりにさせて頂けますか?」
「そ、それは……」
私は、感情を表に出さずに、淡々と事実を告げた。
その言葉に、ガルビム様は少し動揺している。私とガルビム様の婚約は、両家の合意によって決められた婚約だ。それを自分の不貞で解消されたとなると、どうなるか一応理解しているのだろう。
「ガルビム様、良いではありませんか?」
「シ、シメール?」
「あの方が婚約破棄してくれるというなら、私とガルビム様が結ばれます。何も問題ないのではありませんか?」
「い、いや、それは……」
そんな中、シメール様は嬉しそうにしていた。
私とガルビム様の婚約がなくなれば、自分が婚約者になれる。楽観的に、そのように考えているのだろう。
だが、それは甘い考えというものだ。婚約というのは、そう簡単に決められるものではない。私と婚約破棄したとしても、シメール様が婚約者になるとは限らないだろう。
そもそも、シメール様はガルビム様の愛が自分にだけ向いているものだと勘違いしている。実際、現場を見ていないためわからないが、ガルビム様は悪い噂が絶えない。そんな彼が、たった一人の人間に愛を向けているはずがないだろう。
「それでは、私はこれで失礼します。詳しい話は、また後日行いましょう」
「あ、いや、待て……」
しかし、私は特に何か言おうとは思わなかった。
最早、彼と彼女がどうなろうが興味はない。私は、ただ婚約破棄するだけ。その後のことは、二人の問題である。
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