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私は、エリグス様と別れた後、廊下を歩いていた。
すると、奥から見知った顔が歩いてくることに気づく。
「あら? お姉様、エリグス様との会合は終わったのですね?」
「え、ええ……」
それは、妹のセレリアだった。
オーフィス様と婚約破棄したことによって、彼女は色々と複雑な立場になっている。
だが、セレリアはとても楽しそうだった。彼と別れられたことが、それ程に幸せなのだろうか。
「といっても、知っています。全部見ていましたから……」
「見ていた?」
「ええ、いつかのお姉様達のように、陰から見ていました。中々、面白いことを話していましたね……」
「そう……だったのね」
セレリアは、私達のことを見ていたようである。
そんなことは、まったく気づいていなかった。だが、別にそれはおかしいことではない。中庭は、結構どこからでも見える場所だ。隠れて聞いていれば、普通にばれないだろう。以前、私も同じことをやったので、よくわかっている。
同じことをしているため、彼女には何も言うことができない。流石に、そこまで図太い神経は持ち合わせていないのである。
「中庭で、ああいう話をするのはやめておいた方がいいと思いますよ。といっても、私も人のことは言えませんけどね……」
「それは……」
「あの時の盗み聞きのことは、別に咎めたりしませんよ? 心配してくれたのですよね? お優しいお姉様なら、仕方がないことです」
私に対して、セレリアは笑顔で話してきた。
だが、その言葉の節々には少し棘がある気がする。それは、私の気のせいなのだろうか。
「あの時のことは、ごめんなさい。盗み聞きしていたことは、もう一度謝らせてもらうわ……」
「大丈夫だと言ったでしょう。何も怒っていませんよ? こちらこそ、盗み聞きして、申し訳ありませんでしたね」
彼女には、あの時の盗み聞きについては謝罪した。少し落ち着いた後、謝ったのだ。
その時は、とても怒っていたのだが、今はそのように声を荒げて怒ることはない。
そのことが、逆に怖かった。心の底で、何か恐ろしいことを考えているのではないかと思えてしまうのだ。
それなら、感情を露わにして怒ってくれた方が楽である。単純に、私の考え過ぎなのかもしれないが、何故か彼女がとても怖い。
「お姉様、どうかエリグス様と幸せになってくださいね……幸せをたっぷりと味わってください」
「セレリア? あなた、どうかしたの?」
「……別に、なんでもありませんよ」
セレリアの笑顔に、私は思わず聞いていた。
彼女が、何を考えているかまったくわからない。この子は、こんなにも恐ろしいことだっただろうか。
「それでは、私はこれで失礼します」
「え、ええ……」
それだけ言って、彼女は去って行った。
その後ろ姿を見つめる私の心には、少しだけ不安が残るのだった。
すると、奥から見知った顔が歩いてくることに気づく。
「あら? お姉様、エリグス様との会合は終わったのですね?」
「え、ええ……」
それは、妹のセレリアだった。
オーフィス様と婚約破棄したことによって、彼女は色々と複雑な立場になっている。
だが、セレリアはとても楽しそうだった。彼と別れられたことが、それ程に幸せなのだろうか。
「といっても、知っています。全部見ていましたから……」
「見ていた?」
「ええ、いつかのお姉様達のように、陰から見ていました。中々、面白いことを話していましたね……」
「そう……だったのね」
セレリアは、私達のことを見ていたようである。
そんなことは、まったく気づいていなかった。だが、別にそれはおかしいことではない。中庭は、結構どこからでも見える場所だ。隠れて聞いていれば、普通にばれないだろう。以前、私も同じことをやったので、よくわかっている。
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「中庭で、ああいう話をするのはやめておいた方がいいと思いますよ。といっても、私も人のことは言えませんけどね……」
「それは……」
「あの時の盗み聞きのことは、別に咎めたりしませんよ? 心配してくれたのですよね? お優しいお姉様なら、仕方がないことです」
私に対して、セレリアは笑顔で話してきた。
だが、その言葉の節々には少し棘がある気がする。それは、私の気のせいなのだろうか。
「あの時のことは、ごめんなさい。盗み聞きしていたことは、もう一度謝らせてもらうわ……」
「大丈夫だと言ったでしょう。何も怒っていませんよ? こちらこそ、盗み聞きして、申し訳ありませんでしたね」
彼女には、あの時の盗み聞きについては謝罪した。少し落ち着いた後、謝ったのだ。
その時は、とても怒っていたのだが、今はそのように声を荒げて怒ることはない。
そのことが、逆に怖かった。心の底で、何か恐ろしいことを考えているのではないかと思えてしまうのだ。
それなら、感情を露わにして怒ってくれた方が楽である。単純に、私の考え過ぎなのかもしれないが、何故か彼女がとても怖い。
「お姉様、どうかエリグス様と幸せになってくださいね……幸せをたっぷりと味わってください」
「セレリア? あなた、どうかしたの?」
「……別に、なんでもありませんよ」
セレリアの笑顔に、私は思わず聞いていた。
彼女が、何を考えているかまったくわからない。この子は、こんなにも恐ろしいことだっただろうか。
「それでは、私はこれで失礼します」
「え、ええ……」
それだけ言って、彼女は去って行った。
その後ろ姿を見つめる私の心には、少しだけ不安が残るのだった。
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