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 私が物陰から、セレリアとオーフィス様を見ていると、エリグス様が現れた。
 どうやら、険悪な雰囲気の二人を止めに来てくれたらしい。

「エリグス様……」
「あなたか、なんの用だ?」
「お二人が、少々おかしな方向に行きかけていたので、止めに来たのです」

 二人に対して、エリグス様は笑顔で接していた。
 それは、絶対に作り笑いだろう。だが、作り笑いでもこの場で笑えるというのは、すごいことである。

「あなたには関係ないことだ」
「そうです。いきなり現れて、何を言っているのですか?」
「あなた達は、自ら婚約することを選んだではありませんか? それなのに、今更先程のようなことを言うのは身勝手だとは思いませんか?」
「それは……」
「別に……」
 
 エリグス様の言葉に、二人は怯んだ。
 自分達がその婚約を選択していることは、きちんと理解しているようだ。
 それなのに、文句を言う。それがおかしいという真っ当な理論に、何も言えなくなっているのだ。

「だからといって、僕は現状に満足しようとは思っていない」
「何を言っているのですか?」
「例え、自分で選んだからといって、それを否定する権利があなたにあると思うな。僕は、僕で勝手にするのだ。口を挟まないでくれ」

 しかし、オーフィス様は尚も反論していた。
 それは、もう滅茶苦茶な理論だ。しかし、最初から彼に理論など期待するべきではなかったのだろう。
 そもそも感情で動いていた人間だ。そんな彼に対して、正論を言った所で、どうしようもないのである。

「気に入りませんが、そこについては私も同意見です。放っておいてください」
「……そうですか」

 セレリアも、オーフィス様と同意見だった。
 この二人は、そのように意見が合うため、気が合ったのかもしれない。
 婚約者がいるという条件は、それを燃え上がらせてしまったのだろう。恋愛感情という形になって、二人は止まらなくなったのだ。
 その結果が、これである。なんとも、愚かなことだろう。

「わかりました。それなら、ご自由にどうぞ」

 何も聞き入れない彼等に呆れ果てて、エリグス様は説得を諦めた。
 それは仕方ないことだろう。あの二人に何を言っても、もう無駄である。

「あれ?」
「あっ……」

 そんなことを考えると、私はエリグス様と目が合った。
 隠れてみていたことが、ばれてしまったのだ。しかし、別に不都合はないので、それは構わない。
 彼は、ゆっくりとこちら側に歩いてくる。そんな彼の苦笑いに、私も同じように苦笑いで返すのだった。
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