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91.兄と弟

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 私は、マグナード様と並んでベルダー様と対面していた。
 ベルダー様は、真剣な顔をしている。その顔は、少し怖い。私と話していた時は、かなり気を抜いていたのだということが、その表情からわかる。

「さて、マグナード、お前に一つ聞いておかなければならない。そちらにいるイルリア嬢は、子爵家の令嬢だ。一方で、お前は公爵家の令息、同じ貴族ではあっても、そこには地位の差というものが存在している。それは、理解しているか?」
「もちろんです」
「それならば、この婚約がビルドリム公爵家に対してそれ程利益をもたらすものではないということも、わかっているのか?」
「利益、ですか……」

 ベルダー様の言葉に、マグナード様は少し表情を歪めた。
 利益があるかないか、そういった面の話をされるのは、不愉快であるのだろう。
 とはいえ、ベルダー様の論はもっともだ。貴族の婚約であるのだから、その問題は避けて通ることができないだろう。

「子爵家との繋がりも、ビルドリム公爵家に対しては利益をもたらすと思いますが……」
「伯爵家や侯爵家などの婚約と比べると、もたらす利益は違うと思うが?」
「力があるからといって、利益が大きいとも限りません。力があると増長します。そういう意味では、制御しやすい地位の方が良い面もあるかと思いますが……」

 マグナード様は、私の方を何度か見ながら話をしていた。
 実質的に、私の家を取り込むというような話をしているので、それは当然であるだろう。

 もちろん、私はマグナード様のことを信頼しているため、そんなことがないということはわかっている。彼もきっと、そんな私の考えをわかっているだろう。
 しかし、それでも気が気ではないはずだ。私だって、嘘でもマグナード様のことを貶めたりするのは、気が引ける。

「油断して手を噛まれると考えている時点で、未熟だとしか言いようがない。公爵家を継ぐのは俺であるが、それでもお前が誇り高きビルドリム公爵家の一員であることは変わらない。軟弱なことを言うな」
「兄上……」
「お前は、覚悟してここに来たのではないのか。あまり俺を失望させるな。マグナード、お前が半端者であるというなら、イルリア嬢にも迷惑をかける。それを理解しろ」

 ベルダー様は、マグナード様に対して鋭い視線を向けた。
 きっとこれは、彼の優しさなのだろう。事前に話を聞いた私は、そう思っていた。
 ベルダー様は、覚悟を試しているのだ。しかしマグナード様なら、きっとそれに応えられるはずである。
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