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88.兄との対話

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「最初に言っておくが、俺は別に君達の婚約に反対している訳ではない」
「……え?」
「君に対して、敵意や反感などはない。マグナードが選んだ女性なら信頼できる」

 ベルダー様と二人きりで話すことになった私は、彼の言葉に驚いていた。
 私達の婚約に反対していない。それは今まで聞いていたことから考えると、信じられないことである。
 私はそもそも、ベルダー様に認めてもらうためにここに来たはずなのだが、その必要がなかったということだろうか。

「それでは一体どうして、ベルダー様は反対しているふりをしているのですか? いえ、ふりをしているということで、いいのですよね?」
「マグナードのことは信頼しているが、奴にはまだまだ未熟な所もある。いい機会だったからな。その辺りに関して、色々と刺激しておきたかったのだ」

 ベルダー様は、ただでさえ怖い顔を険しくしていた。
 しかしそれは、別にマグナード様に敵意があるとか、そういう訳ではないのだろう。二人の仲は良好だったのだから、それは間違いない。
 つまりこれは、愛故に試練を与えようとしているといった所だろうか。ベルダー様は、中々にスパルタなのかもしれない。

「それに体裁の面もある。今回のことが容易なことであると思われたくはないからな。君達はあくまでも、魔法学園で絆を深め合った結果、奇跡的に結ばれたということにしておきたい。これからビルドリム公爵家に、面倒な縁談を持ち込まれても困るからな」
「なるほど……」

 ベルダー様は、今後のことについてよく考えているようだ。
 そういった所は、流石次期公爵といった所だろうか。

「しかし、君には余計な心配をさせてしまったな。申し訳ないと思っている」
「いえ、お気になさらないでください。そもそも私にとっては、身に余る幸福である訳ですし……」
「……ふむ」

 そこでベルダー様は、少しだけその表情を緩めた。
 彼は、私の顔をじっくりと見ている。そんな風に見られると、少し恥ずかしい。

「これは、純粋な興味でしかないのだが、君はマグナードのどこに惹かれたのだ?」
「え?」
「兄である俺は、奴の良い所も悪い所も知っている……つもりだ。だからこそ気になっている。答えたくないならそれでも構わない」

 ベルダー様は、本当に軽い感じで質問をしてきていた。
 この会話は既に、雑談しかないということだろう。答えなくても、今後の関係に差支えはなさそうだ。
 ただ、私は答えたいと思った。それに答えることは、私の気持ちを改めて整理することにも、繋がると思ったのだ。
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