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87.兄弟のやり取り
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私は、マグナード様とともにビルドリム公爵家までやって来た。
ビルドリム公爵夫妻は、私のことを快く受け入れてくれた。息子のことをよろしくとまで言ってくれたし、私との婚約に関して、本当に反対はしてないようだ。
しかしそんな両親と違って、ビルドリム公爵家の長男であるベルダー様は、鋭い視線を私に向けてきた。その視線の恐ろしさに、私は少し気圧されてしまう。
「兄上、納得していないからといって、明らかな敵意を向けるのはやめていただきたい。そんな鋭い視線を女性に向けるなんて、紳士としてどうかと思います」
「……鋭い視線を向けているつもりはない。この目つきは生まれつきだ。そんなことはお前もわかっているだろう」
「……そういえば、そうでしたか」
視線に怯えていた私だったが、ベルダー様とマグナード様の和やかな会話に少し肩の力が抜けた。
どうやらベルダー様は、私に特別鋭い視線を向けてきていた訳ではないらしい。それはとても、安心できることだった。
既に敵意を向ける程であるというなら、婚約を認めてもらえる可能性が低かっただろう。そうでないということなら、まだ可能性が高そうだ。
「イルリア嬢、すみませんね。兄上は元々目つきが鋭い人で……僕もそろそろ慣れたい所なんですが、やっぱり怖いですよね?」
「マグナード、恋人の肩を持つなとは言わないが、その発言は少々不躾が過ぎるぞ」
「すみません。でも、兄上の視線は怖いんです」
「後ろを向いて話してやろうか」
「それは、相手に失礼ですよ」
「どうしろというのだ」
ベルダー様とマグナード様は、とても楽しそうにやり取りをしていた。
二人は仲が良いのだろう。それはその会話から伝わってきた。
反対されているということもあって、兄弟の仲はそれ程良くないものだとばかり思っていた。だが、実際はそういう訳でもなかったようだ。
「さてと、マグナード。少しの間、イルリア嬢と二人で話させてもらうぞ」
「……兄上、それはどういうことですか?」
「心配するな。危害を加えるつもりはない。怖がらせないようにも心掛けるつもりだ。あくまでも腹を割って話したいというだけだ」
しかしベルダー様の提案に、マグナード様の表情が強張った。
恐らく、私のことを心配してくれているのだろう。二人きりで、ベルダー様が恐喝する。その可能性は低そうだが、心配してもらえるのはありがたい。
「イルリア嬢を、あまり男性と二人きりにさせたくありません」
「……お前は何を言っているんだ。俺が弟の恋人に手を出すとでも?」
「可能性はゼロではないでしょうが」
どうやらマグナード様の心配は、別の方面のものであったようだ。
それはそれで、嬉しく思う。それにしても、ベルダー様に対する信頼がないような気もしてしまうのだが。
「……使用人を同席させよう。メイド長なら信頼できるか。彼女には俺も父上も母上も頭が上がらないことは知っているだろう。先代からの重鎮だ」
「……仕方ありませんか。それで手を打ちましょう」
「こんなことで彼女の手を煩わせたくはないのだがな……」
ベルダー様の提案で、話はまとまった。
なんというか、不思議な感覚だ。やはりマグナード様も、兄弟の前では別の顔を見せるということなのだろうか。彼のいつもとは違う一面を垣間見て、私は笑顔を浮かべるのだった。
ビルドリム公爵夫妻は、私のことを快く受け入れてくれた。息子のことをよろしくとまで言ってくれたし、私との婚約に関して、本当に反対はしてないようだ。
しかしそんな両親と違って、ビルドリム公爵家の長男であるベルダー様は、鋭い視線を私に向けてきた。その視線の恐ろしさに、私は少し気圧されてしまう。
「兄上、納得していないからといって、明らかな敵意を向けるのはやめていただきたい。そんな鋭い視線を女性に向けるなんて、紳士としてどうかと思います」
「……鋭い視線を向けているつもりはない。この目つきは生まれつきだ。そんなことはお前もわかっているだろう」
「……そういえば、そうでしたか」
視線に怯えていた私だったが、ベルダー様とマグナード様の和やかな会話に少し肩の力が抜けた。
どうやらベルダー様は、私に特別鋭い視線を向けてきていた訳ではないらしい。それはとても、安心できることだった。
既に敵意を向ける程であるというなら、婚約を認めてもらえる可能性が低かっただろう。そうでないということなら、まだ可能性が高そうだ。
「イルリア嬢、すみませんね。兄上は元々目つきが鋭い人で……僕もそろそろ慣れたい所なんですが、やっぱり怖いですよね?」
「マグナード、恋人の肩を持つなとは言わないが、その発言は少々不躾が過ぎるぞ」
「すみません。でも、兄上の視線は怖いんです」
「後ろを向いて話してやろうか」
「それは、相手に失礼ですよ」
「どうしろというのだ」
ベルダー様とマグナード様は、とても楽しそうにやり取りをしていた。
二人は仲が良いのだろう。それはその会話から伝わってきた。
反対されているということもあって、兄弟の仲はそれ程良くないものだとばかり思っていた。だが、実際はそういう訳でもなかったようだ。
「さてと、マグナード。少しの間、イルリア嬢と二人で話させてもらうぞ」
「……兄上、それはどういうことですか?」
「心配するな。危害を加えるつもりはない。怖がらせないようにも心掛けるつもりだ。あくまでも腹を割って話したいというだけだ」
しかしベルダー様の提案に、マグナード様の表情が強張った。
恐らく、私のことを心配してくれているのだろう。二人きりで、ベルダー様が恐喝する。その可能性は低そうだが、心配してもらえるのはありがたい。
「イルリア嬢を、あまり男性と二人きりにさせたくありません」
「……お前は何を言っているんだ。俺が弟の恋人に手を出すとでも?」
「可能性はゼロではないでしょうが」
どうやらマグナード様の心配は、別の方面のものであったようだ。
それはそれで、嬉しく思う。それにしても、ベルダー様に対する信頼がないような気もしてしまうのだが。
「……使用人を同席させよう。メイド長なら信頼できるか。彼女には俺も父上も母上も頭が上がらないことは知っているだろう。先代からの重鎮だ」
「……仕方ありませんか。それで手を打ちましょう」
「こんなことで彼女の手を煩わせたくはないのだがな……」
ベルダー様の提案で、話はまとまった。
なんというか、不思議な感覚だ。やはりマグナード様も、兄弟の前では別の顔を見せるということなのだろうか。彼のいつもとは違う一面を垣間見て、私は笑顔を浮かべるのだった。
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