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79.牢屋の中で

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 王国の犯罪などは、騎士団が取り締まっている。
 その騎士団も、流石に第二王子や公爵令息の要請は断れないようだ。少なくとも、人を刺した男とそのターゲットが対面できているのは、二人の影響があるからだろう。
 何はともあれ、私はロダルト様を訪ねていた。彼から、色々と聞いておきたいことがあったからだ。

「……」

 牢屋の中で拘束されているロダルト様は、そのままの状態でこちらに視線を向けてきた。
 その目には驚きがある。それは当然だ。彼の方も、私に会えるとは思っていなかっただろう。
 それからすぐに、ロダルト様は笑顔を浮かべた。私と会えたことを、喜んでくれているということだろうか。

「イルリア、来てくれたのか?」
「ええ、来ましたよ。それで喜ばれても、困りますが……」
「やはり君は、僕のことを見捨ててはいかなかった、ということか。ははっ、はははっ……」

 ロダルト様は、虚ろな目でそんなことを言ってきた。
 その様に、私は少し引いてしまう。なんというか、とても怖い笑みだったのだ。
 そんな私を見かねてか、マグナード様がこちらにやって来てくれた。彼は、私の顔を心配そうに見つめている。

「イルリア嬢、大丈夫――」
「お前はっ!」

 マグナード様の言葉は、ロダルト様の言葉によって遮られた。
 彼のその怒気を孕んだ大声に、周囲から騎士達が集まって来る。彼らは、ロダルト様のことをかなり警戒しているようだ。

「イルリアに近づくなあっ!」

 するとロダルト様が、また大きな声を上げ始めた。
 どうやら彼は、私に男性が近づくことが気に入らないようだ。それはつまり、独占欲ということなのだろうか。

「……落ち着いてください」
「イルリア……」
「私はあなたから色々と聞きたいと思っています。周囲のことは気にする必要はありません。二人で話しましょう」
「そうか……」

 私が声をかけると、ロダルト様は一気に落ち着いてくれた。
 正直な所、彼から好意を向けられているという事実は気分が悪い。このような人に好かれても、まったく嬉しくはない。ただ、今はその好意を利用できそうだ。

 私は、彼から話を聞きたいと思っていた。
 それは、真実を知りたいという個人的な想いがあるからだ。ただ、実の所それだけだはない。

 ロダルト様は、これまでずっと黙秘しているらしい。
 様々な証言から、彼が犯人であることは間違いないのだが、それでも証言が取れないというのはまずいそうだ。

 故に私は、騎士団からも話を聞くように頼まれている。
 王子や公爵令息の力もあっただろうが、騎士団が私をこの場に立たせているのは、それも理由の一端であるだろう。
 だから私は、その役目をきちんと果たすつもりだ。私は今回の事件の全てを、ロダルト様から聞き出すのである。
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