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72.仮眠をとって

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 当然のことながら、私の仮眠にマグナード様が連れそうことはなかった。
 代わりに来てくれたのはエムリーである。今回のような場合は、彼女が適切であるだろう。
 という訳で、私はしばらくの間仮眠をとることになった。正直かなり限界だったので、部屋に来て横になったらすぐに眠ったと思う。

「んんっ……」
「あ、お姉様、起きられたのですね?」
「ええ、大分すっきりしたわ。見守ってくれていてありがとう、エムリー」
「いいえ、実の所、私も少し眠ってしまいました」
「そう……まあ、あなたもほとんど徹夜だった訳だしね」

 ゆっくりと体を起こした私は、少し寝ぼけ眼のエムリーを見て笑顔を浮かべていた。
 一時間くらい眠っていただろうか。辺りは朝日によって明るく照らされている。どうやら、完全に朝を迎えたようだ。

「特に問題は起こっていなさそうね?」
「そのようですね。なんだか、少し安心することができます」
「ええ、まあ、これだけ警戒しているからね」

 不審者が何者であるかはわからないが、流石にこの警戒態勢の中で何かを仕掛けることなんてできないだろう。
 例え何か狙いがあったとしても、くすぶっているはずだ。
 できれば、このまま抑えつけておきたい所である。相手がやけになったりしなければいいのだが。

「……それでお姉様、私、少し気になることがあるんです」
「気になること? 何かしら?」
「夢の中で、男性の顔が浮かんできたんです。同い年くらいの知らない男性の顔……優しそうだけれど、なんだか怖い人で、何か心当たりはありませんか?」
「えっと……」

 どうやら、エムリーは夢の中で記憶に関することを思い出していたらしい。
 その抽象的な印象から、私は考える。優しそうだけれど怖い同い年くらいの男性で、エムリーに関わりが深い人が誰なのかを。
 そうやって考えていくと、ある一人の顔が浮かんできた。多分、エムリーは彼のことを夢で見たのだろう。

「それは恐らく、ロダルト様ね」
「ロダルト様、それはどなたなんですか?」
「私の元婚約者で……あなたにとっても元婚約者ね?」
「……なんだか、複雑な関係性ですね?」
「ええ、そうなのよ」

 エムリーが夢で見たのは、恐らくロダルト様だ。彼ならば、彼女の説明に合致する。
 一応婚約者であった訳だし、印象深いはずだ。記憶の中から急に思い浮かんできても、おかしくはない。

「まあ、彼の話もしておくべきかしらね。ただ今は時間がないから、帰りの馬車で話しましょうか」
「ええ、よろしくお願いします」

 これから私達は、帰り支度をしなければならない。そのため、ロダルト様の話は後にするとしよう。時間は後でたっぷりとあるのだから。
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