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69.寝顔を見ていると

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 色々と考えていたからか、私は中々眠ることができなかった。
 隣にいるエムリーは、心地よさそうに寝息を立てている。こうして眠っていると、彼女も可愛いものだ。いや最近は、眠ってなくても可愛く思っているのだが。

「不思議なものね……」

 エムリーの顔を見てそんな風に思える日が来るなんて、少し前までは思っていなかったことである。
 こうして別荘に遊びに来ていなかったら、そう思えなかったかもしれない。

「でも……」

 眠る前、彼女は記憶を取り戻す兆候を見せていた。
 もしかしたらもうすぐ記憶が戻って来るのかもしれない。そうなった場合、私達の関係は元に戻るのだろう。
 それは悲しいことではあるが、仕方ないことでもある。そもそもの話、この期間の方がおかしかったのだから。

「泡沫の夢……とでも思っておくべきね、この期間、は?」

 眠れないため、私はゆっくりと体を起こそうとした。
 すると、月の光がカーテンを突き抜けて部屋を照らしていた。

 それは別に、おかしいことではない。雲がないならそうなるのが当然のことであるだろう。
 ただ、そのカーテンに黒い人影らしきものがあることは、明らかにおかしいことだった。それを見て私は、固まってしまう。

「そ、外に、誰かが、いる……?」

 驚いたら声が出るタイプではなくて、良かったと心から思った。
 私は起こそうとしていた体をゆっくりと下げる。とにかく外にある人影に、悟られてはいけないと思ったからだ。

 しかし、そこで問題に気付いた。
 私のベッドは、廊下側にある。つまり窓際にはエムリーのベッドがあるということだ。
 仮に窓の外にいる何者かが、中に入ってきた場合、一番危険なのは妹である。それに気付いた私は、ばれないようにすることを諦めることにした。

「……きゃああああああああああ!」
「え?」
「エムリー、こっちへ!」
「お、お姉様?」

 私は、大きな声を上げた後にエムリーの体を引っ張った。
 これで外にいる何者かに私のことは悟られたが、マグナード様やブライト殿下、その他使用人にも危機が伝わったはずだ。
 当然この方法には危険もあるが、今はこの方がいいだろう。私は、エムリーのことを庇いながら、部屋の外へと向かって行く。

「あれは、人影?」
「逃げているわね……」

 その瞬間、私は部屋の外にいる人影が走っていくのが見えた。
 どうやら相手は、逃げることを選択したようである。
 それは私達にとっても安心できることだ。逃げてくれるなら、それにこしたことはない。

「イルリア嬢! 何かあったのですか?」
「あ、マグナード様」

 そんなことを思っていると、マグナード様が焦ったような顔をしてやって来た。
 私の目論見通り、人々がここに集まっている。とりあえずこれで、安全は確保することができそうだ。
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