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61.その動揺は

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「ふう……」
「お姉様? どうかされましたか?」
「ああいえ、なんでもないわ。少し疲れたというか……まあ、はしゃぎ過ぎたといった所かしらね」

 マグナード様の別荘にて、夕食をいただいた私は、エムリーとともに客室に来ていた。
 念のため、妹とは同室にさせてもらっている。今の彼女を一人にする訳にはいかない。不安だろうし、何が起こるかわからないからだ。

 しかしその状況というのは、私にとっていいものという訳でもない。
 エムリーには悪いが、心が休まる時がないのだ。まあ、眠ってしまえばそれなりに休めるだろうし、今日は早めに就寝するとしよう。

「私も楽しかったです。お姉様の友人方にも、本当に良くしてもらいましたし」
「それならよかったわ」
「私がついて行って、本当にいいのかとも思っていましたが……」
「そんなことは気にしなくていいのよ。あなたは妹なのだから、変に気遣いする必要なんて、ないのだから……」

 エムリーに対して言葉を発しながら、私は苦笑いを浮かべていた。
 私が彼女に、こんなことを言うなんて不思議なことである。まるで普通の姉妹みたいだ。殺伐としていた昔が、最早懐かしいとさえ思えてくる。

「……でも」
「うん?」
「お姉様は、私のことがお嫌いなのでしょう?」
「……え?」

 エムリーから突然投げかけられた言葉に、私は思わず固まっていた。
 そんな質問をされるなんて思ってもいなかったので、動揺してしまう。
 そしてその動揺は、質問が図星であることを表していた。だからだろうか、エムリーは苦い顔をする。

「やはりそうだったのですね。私達は、仲が良い姉妹という訳ではなかった、という解釈でいいのでしょうか?」
「それはその……」
「なんとなく、そうじゃないかと思っていたんです。でもお姉様はお優しい方ですね。嫌っているはずの私に、こんなに良くしてくれるなんて」

 エムリーは、どこか痛々しい笑みを浮かべていた。
 無理をしている。その笑顔を見れば、誰もがそう思うだろう。
 私は、ゆっくりと息を呑んだ。何かフォローをしたいのだが、言葉はまったく出て来ない。

「きっと私は、ひどい人間だったのでしょうね。なんだか、自分で自分が嫌になってきます」
「そ、そんなことは……」
「正直に言ってください。私がどのような人間だったのかを。もしもお姉様に思う所があるというなら、それも打ち明けてください。今ならそれを聞くことができます。私は全て受け止めるつもりです」

 すぐ目の前にいるというのに、エムリーとの距離がとても遠かった。
 いやそもそも、目の前にいるのはエムリーなのだろうか。私はなんだか、それえさえもわからなくなっていた。
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