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43.動かない二人

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 放課後、私は寮に帰る支度をしていた。
 結局、今日一日も特に何もなかった。なんというか、少し拍子抜けである。

「……下の学年の知人から連絡がありましたが、どうやら二人とも特に今日は何もしていなかったようですね」
「そうなのですか?」
「ええ、いつも通りだったようですね」

 マグナード様の言葉に、私は少し考えることになった。
 ヴォルダン伯爵令息とムドラス伯爵令息、その二人は本当にナルネア嬢の仇討ちなどを考えているのだろうか。
 もしかしたらそれは、ミレリア嬢の勘違いなのかもしれない。ここまで何もないと、流石にそう思えてくる。

「案外、私達のことを気にしてはいないのかもしれませんね?」
「そうですね……いや、どうなのでしょうか?」

 私の言葉に、マグナード様は少し困惑していた。
 それはなんというか、珍しい反応だ。彼はいつも、冷静で飄々としているというのに。

「まあ、ミレリア嬢の見込み違いであるというなら、それはそれで構いません。どちらにしても、二人のことはなんとかします。ナルネア嬢の取り巻きに紛れ込ませた部下から聞きましたが、件の二人は危険なようですからね」
「そうなのですか?」
「ええ、といっても、言われてみれば、というような反応でしたね。どうやらその二人に関しては、ナルネア嬢の方が抑止力になっていたようですね。彼女は、相手を肉体的に痛めつけるというようなことはしない人だったので」

 ナルネア嬢の信奉者であるということは、彼女の意向に従うということになる。
 彼女は私のことも、精神的に追い詰めることしかしてこなかった。だからこそ、二人の令息は手を出したりはしてこなかったということだろう。

「ナルネア嬢の影響で、丸くなったとか?」
「その可能性もあるのかもしれませんね。それでもあくどいことには変わりありませんが」
「まあ、暴力に頼らないだけましとしておきましょう」
「うん?」

 そこでマグナード様は、教室の入り口の方を見ていた。
 そこには、見たことがない男性がいる。もしかして、あれが件の二人のどちらかだろうか。よく考えてみれば、私はまだ二人の顔を知らない。

「マグナード様、申し訳ありません」
「……どうかしましたか?」

 しかし私は、すぐにその人物が誰であるかを理解した。
 彼は恐らく、マグナード様の知人だ。その知人は、明らかに何かあったという顔をしている。
 私とマグナード様は、顔を見合わせた。なんだか、嫌な予感がする。一体どのような問題が、起こったというのだろうか。
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